劇場公開日 2021年5月29日

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「半世紀前には先進的過ぎ。どこまでも明け透けで赤裸々なほぼ洋ピンコメディ」ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0半世紀前には先進的過ぎ。どこまでも明け透けで赤裸々なほぼ洋ピンコメディ

2021年7月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ボロいダンプでゴミ収集業を営むクラスキーとパドバンは仕事帰りに立ち寄った寂れたカフェでウェイトレスのジョニーと出会う。クラスキーに惹かれたジョニーは近所の倉庫で開かれるダンスパーティにクラスキーを誘ったことからお互いに惹かれ合うが実はクラスキーはゲイで・・・。

確かに1969年という時代にしては衝撃的な内容、というかゲイのイケメンとボーイッシュな女子が試行錯誤を繰り返す結構のほほんとしたほぼ洋ピンコメディのプロット。洋ピンの全盛期は私が小学生だった70年代だったはずですので当時このまんま上映していたら洋ピンとしても先進的だったと思います。試行錯誤の上にジョニーが大声を出しては追い出されるという寸劇を延々繰り返すだけなので今同じことをやってもダダスベりするネタですが、これを半世紀前にやっていたということが画期的です。

映画が始まった瞬間に気付いたことですが、本邦初公開版を30年くらい前に深夜テレビで観てました。当時タイトルも何も知らずにぼんやり観てたので断片的な記憶しか残っていなかったこともありますが、本作はセリフがフランス語だというだけで、映像に映るのは広大な空き地やゴミ捨て場、廃墟みたいな倉庫や民宿ばかりでいかにもフレンチなものは何も映っていません。恐らく当時は英語吹替での放映だったでしょうからフランス映画であることすら判っていませんでした。

無修正版ですから無粋なボカシやモザイクはなくなっていますが、だからといって猥雑さが際立っているかというとむしろ逆で、全部何も隠されていないからこそ登場人物達の葛藤も全部見えているわけで、大胆で赤裸々な性描写がむしろ必然でありそれがカットされていたら実につまらないコメディにしかならないと思いますので、当時の記憶があやふやだったのも当然であり、今回本来あるべき形で鑑賞出来たのは光栄だったと思います。

ゲンズブール作品ということで敷居が高いイメージがありますが、本作にはそんな風格はどこにもなく、当時40代そこそこだったゲンズブールが好き勝手やった奔放な作品。馬に乗ってフラッと現れるラリラリのヘンなお兄ちゃんを演じているジェラール・ドパルデューのとぼけた演技も楽しめる結構ほんわかした作品。当時ゲンズブールのパートナーだったというジェーン・バーキンの今にもポッキリと折れてしまうそうなほどに華奢なのにずっしりとした存在感のある佇まいが印象的。

上映直前にバーキン本人によるコメント映像が流れ、当時トリュフォーが自分の作品じゃなくてこっちを観ろと言っていた等のエピソードを披露しながら、なんとなく戸惑っているような表情を浮かべていたような気がしました。それぐらい赤裸々な作品です。

よね