アワーミュージック : 映画評論・批評
2005年10月11日更新
2005年10月15日よりシャンテシネほかにてロードショー
「他者」との共存の可能性を信じて奏でられる“私たちの音楽”
ゴダールの新作は、冷戦の終焉直後に起こった旧ユーゴスラビア内戦の悲劇を象徴する都市セルビアを舞台に展開される。そこで僕らが目にするセルビアは、半壊状態のまま立つビルや壁に残された弾痕など、戦争の記憶が今なお生々しい。ところが、街全体が沈痛な雰囲気に支配されるかと言えばむしろ逆で、どこか開放的な気分さえ漂わせる点が感動的で、そうした明るい雰囲気が――むろんゴダール作品の常として複雑な内容ではあるが――この映画のトーンを決定づけている。
思えば、セルビア人とイスラム教徒の対立が焦点となった内戦で、この都市における複数の民族や宗教の伝統的な共存が壊滅の危機にさらされた。ところがコーランの鳴り響く本作でのセルビアからは、多文化共存の回復が予感され、それを祝福すべくその地を訪れるゴダールも含め2人の若くて美しいユダヤ人女性など何人もの“外国人”を介し、ゴダール作品としては初めて、やはり「他者」との共存に苦しむイスラエル問題に焦点が当てられる。
何度も戦禍を潜りぬけ、再び多文化共存を選択しようとする都市を舞台に「他者」との共存の可能性を信じて奏でられる“私たちの音楽”の勇敢で清澄な調べを、僕ら1人1人が心して聴き取り、そこに参加できれば……と願わずにいられない。
(北小路隆志)