「物語に翻弄される主人公」オリバー・ツイスト 回さんの映画レビュー(感想・評価)
物語に翻弄される主人公
有名なタイトルで、DVDのジャケットが美しかったので手に取った。原作は未読。登場人物とあらすじをざっくり知っている状態で鑑賞。
面白いと表すには暗い物語だが、面白かった。配役や役者の演技、舞台がぴったりと合っていて、2時間飽きることがなかった。
ただ、これは主人公が自ら道を切り開く訳でも、物語中に出てくるさまざまな問題が解決される訳でも無く、辛酸を舐めた主人公1人が幸せのきっかけにたどり着く物語なので、細かい部分にモヤモヤした。
一見、金持ちは善、貧乏人は悪のように感じる。ブラウンロー氏が善人で、フェイギン達が悪人の代表だからだ。衣食足りて礼節を知るの通りに見える。だが、それだけではなかった。孤児院の大人達は、いかにも金持ちだが意地悪だ。一方で、貧しそうな行きすがりのお婆さんはオリバーに食事を与えてくれる。他にも、フェイギン一味の中で初めて笑っているオリバーを見ると、金持ちは善、貧乏人は悪の図式通りに描かれていないと思った。
ナンシーがひたすら悲しい。オリバーに自分の境遇を重ね、親切にしてくれる姿を何度も描写した後で、あんな結末になってしまうのは苦しかった。「神様御慈悲を」と叫んでも、善行をしても救われない人がいる。
最後、あんなに酷い目に合わされたフェイギンに優しい心を向けるオリバーには共感できなかった。だが、恩を蔑ろにしない誠実さや、優しさがオリバーらしいと思った。この部分のフェイギンの演技は素晴らしく、フェイギンに良い感情を持たない私も少し胸が痛んだ。フェイギンの叫び声と、組み立てられる処刑台でやっと、フェイギンが吊られることに気づいて込み上げるものがあった。
これでオリバーは幸せへの切符を手にしたが、ドジャーたちの今後や意地悪な葬儀屋の家族に判事、孤児院の大人達は描写されない。それを考えると、単純なハッピーエンドではなさそうだ。