「デュークは誰?」きみに読む物語 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
デュークは誰?
レビューでは、デューク=ノアとしている方が多い。
でも、どうして名を変える?愛の記憶を取り戻したいのに?
アリーは誰と結ばれた?読み聞かす物語では、ノアと結ばれたようだけれども、実際は?
ノアと結ばれて今に繋がるなら、夫婦としての時間が描かれていないのはどうして?デュークの子や孫とアリーとの絡みがないのはどうして?アリーが子や孫と会ってパニックを起こすから近づかないようにしているの?でも、それって…。夫婦・家族としての時間の積み重ねこそが愛の軌跡だと思うのだけれどもな。夫婦・家族の時間のラッシューアルバム写真とかーでもあれば説得力があるのに。毎回、出会いから話すので、家族の時までたどり着けないのかなと。
それとも、激しい恋をしても結ばれず、この療養所で再会して、恋していた時間を思い出してもらうために読み聞かすのなら、夫婦としての時が描かれていないのは解る。でもそれはそれで、複雑。アリーを一途に愛した男。アリーを優先して、家族をないがしろにする男…。
アルツハイマー型認知症。他のタイプの認知症。この映画が公開されたころより、今はいろいろ解ってきたけれど、愛しい人・家族に「あなた誰?」と言われる辛さ・悲しみ・やりきれなさは永遠に変わらないだろう。
恋の物語。
周りの人なんか関係ない。たとえそれが自分の子の願いでも。そんなある種の傲慢さがなければ「一人の人を愛し続けた」なんて言えるような状況にはならないんだろうなあ。
そんなにしてまで貫き通した恋なのに、相手の心に自分が映っていない。なんて残酷な物語。
宣伝に「病を克服」とあるけど、それはない。この映画が公開された当時から認知症のケアの中に回想法というのがあって、昔の音楽とか写真・物品とかを手掛かりに記憶を(一時的でも)呼び戻せることは、関係者ならすでにやっている。だから、私としては、記憶が戻った瞬間より、再び忘れられてしまった時のデュークの表情の方が切なくて、切なくて、涙が出た。
とにかく映像が美しい。ロマンチックの極み。
どの場面もわが身をそこに置き換えて、ロマンチックなシチュエーションに酔いしれたくなる。CG使ってこんな場面を再現できるアトラクションができたら行ってしまうのだろうなあと思う。恥ずかしいけれど。
ボートがスーッと音もなく走る冒頭の河。それをそこはかとなく見つめる品格のある美貌の老婦人。
遊園地。
白鳥とボート。
再会の嵐の場面。
自分の為に作られた家。
etc…。
加えて主演女優二人の美しさ。
若い方はりかちゃん人形かとも見まごうスタイル・ファッション、儚げなんだけど親しみやすい笑顔。おキャンすぎる振る舞いには閉口するけど。
老婦人の品格。佇まい。年取ったらあんな風になりたいというお手本。ため息が出る。
アリーの母親もいい。
ノアの物静かなたたずまい。アリーよりも知的に見える。
ノアの父もツボ。
でも、やはりデュークの一つ一つの表情にやられてしまう。
菫の砂糖漬けのような映画。ロマンチックに浸ることが目的なら、お勧めしたい。
原作未読。
監督は、エモーショナルな甘い蜜の描写だけで、すべてをあいまいにする。
鑑賞してから気が付いたが、『私の中のあなた』の監督の作品。
美談への仕立て方は超一流。でも、甘美な夢に本質をあいまいにされる。
だからかえって、愛の本質とはなんなのかを考えてしまった。