ニュー・ワールド : 映画評論・批評
2006年4月25日更新
2006年4月22日よりサロンパス・ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にてロードショー
美しい映像の連続が深い思索を呼び起こす
アメリカの歴史のプロローグを飾る17世紀初頭、伝説的なジョン・スミスとポカホンタスの愛を、テレンス・マリック監督らしく詩的かつ雄渾に描く映画だ。ディズニーアニメで手垢のついた感がある物語だが、撮影監督エマニュエル・ルベツキのゆったりとしたカメラワークが圧巻の一語で、心地よい陶酔感にいざなわれる。すべてのショットは太陽の位置まで周到に計算しつくされ自然光でとらえられる。平原の草木も、緑深い森の大木も、鏡のように大自然を逆さに反射する川面も、天を衝く青い空も、息を呑むほど美しい! フィルムのひとかけらひとかけらが、「ナショナル・ジオグラフィック」誌から抜け出たように、完璧なショットの連続なのだ。
現バージニア州に着いたイギリス兵士たちがネイティブアメリカンたちと初遭遇する場面で、彼らは身体や顔をまさぐられ“触覚的”に交感をはかられる。ポカホンタス役のクオリアンカ・キルヒャー(恐るべきリアリズムがある!)が手や指などで風や空気を感じる身ぶりをする場面が多くあるように、“触れる”感覚に満ちあふれているからか、すべてのイメージが自然と脳内にしみ込んでくる。現在のアメリカの“諸悪の根源”が400年前から存在していることは痛烈な皮肉だろう。西洋文明が原住民になしてきた罪は重いが、マリック監督は少しの懺悔感もなしに淡々と呈示する。深い思索をともなう深~い映画だ。
(サトウムツオ)