「自分にとっての現実世界が、だれかにとっての夢世界になり得るのだと気づけた映画。」ロスト・イン・トランスレーション 753さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5自分にとっての現実世界が、だれかにとっての夢世界になり得るのだと気づけた映画。

2020年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ソフィア・コッポラ監督作品。
東京を舞台に、最盛期を過ぎた初老のハリウッドスターと、夫の仕事に同行して東京にやって来た若い人妻が出会い、別れるまでの話。
題名にもなったロスト・イン・トランスレーション(翻訳における何らかの意味伝達の抜け落ち)は人間同士の相互理解の難しさを表した典型例であり、異国でのこの経験が、2人がお互いの気持ちを伝える上での困難さを強調する役割も果たしている。

アメリカの画家ジョン・カセールから着想を得たという冒頭のシーンはすごく印象的で、このケツがどんな伏線になってんだ?と訝しながらの初鑑賞。
結局伏線とかではなかったのだけど、この映画を象徴するシーンであることは間違いなかった。
まあ強いていえば、あの割れ目が埋めようのない2人の心の隙間を表しているんでしょうかねえ。笑

わずか16年前の日本はまじか、こんな感じか、という悲惨さで、たとえ写実的ではないにしても少なくともコッポラからの印象が此れなのだからまじか、これか、という感じ。
そんな日本で、夫からも相手にしてもらえず、なのに夫の前では強がって気丈に振る舞ってしまうスカヨハ演じる若妻の憂い、疎外感、虚しさ。漂う空気はミッドナイト・イン・パリに近いものを感じる。
あと当時20歳のスカヨハは確かに若いんだけどもうすでに完成されてて、なんでこの雰囲気が出せるのかな。日本人だったら吉高由里子かなと思ったけどスカヨハはアクションもやるからなあすごい役者だ。

8回くらい江頭2:50に見えたビル・マーレイとは初めまして。
スカヨハと2人で醸し出す妖しさ危うさに惹かれる。
2人でホテルを抜け出した夜、カラ館の通路ではっぴいえんどの”風をあつめて”が漏れてくるのを聴きながら優しく肩を貸す。最高。

全く年代の違う両者に特別な関係が成立していく過程自体が観る人たちにとって十分に魅力たり得ているわけだが、そのことで、社会生活を同い年との関係に限定させる学校制度を批判している人の話を思い出した。彼が望んでいたのはまさに、こういう混ざり合いがもたらす思わぬ発見や面白さなのだろうなあ。同い年だとこうはうまくいかないか。明らかな違いがあったほうが、共通点の発見や、お互いを理解するための意欲を考えれば好都合ということなのか。

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