劇場公開日 2005年10月22日

「ありゃ・・・テロリストじゃなかったのか・・・と、キョトンとした表情のポールの目は、同時多発テロの速報を聞いた時のブッシュに似ていた。」ランド・オブ・プレンティ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ありゃ・・・テロリストじゃなかったのか・・・と、キョトンとした表情のポールの目は、同時多発テロの速報を聞いた時のブッシュに似ていた。

2021年8月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ポール(ジョン・ディール)はベトナム戦争の後遺症が9.11以降に再発してしまった。誇り高きアメリカの国を自分一人で守ってみせる。ケータイの着メロだってアメリカ国家だ。未だに陸軍に所属していると勘違いしてか、監視カメラ付きのバンには武器だって何でも揃っている。「ベトナム戦争だって、アメリカが勝ったんだぜ」などと、大いなる勘違いを姪のラナ(ミシェル・ウィリアムズ)に得意気に話すのです。ターバンを見たらテロリストと思え!が信条なのかもしれません。しかし、警察に捕まったこともなさそうな、善良な市民である一面も見せ、どうしても憎めないキャラクターの男でした。

 そんな伯父さんの言葉に耳を傾け、たった一人の肉親を暖かく見守るラナ。伝道活動を続けていた親とともにアメリカ、アフリカ、パレスチナと移り住んできた彼女は、9.11というアメリカの災難を異国で過ごしてきたことさえ悔やんでいた心優しい20歳の女性。報復することに疑問を感じ、ボランティア活動を続けているのです。スピルバーグの『ミュンヘン』のように残虐シーンから問題提起するのではなく、愛することから平和を訴える象徴的なキャラクターだと思います。

 脇役でも光ったポールの部下であるジミー(リチャード・エドソン)が好きです。ポールの命令を忠実にこなし、飄々とした態度は微笑ましく感じました。しかし、ポールがトラウマによって暴走することにも付き合い、疑問を感じてなかったのか?などと、つっこまないほうが良さそうです。ガキ大将の腹心なんてこんなものです・・・

 後半、ヴェンダースお得意のロード・ムービーとなりますが、車の中だけは家族愛を感じられる空間でした。カリフォルニア州の田舎の道は彼らが歩んできた波乱万丈の人生を象徴するような荒涼感を描き、アメリカ万歳精神が薄れていく旅でもあったかと思います。また、屋上のシーンが3回登場しますが、ラナが伯父とめぐり合えたことの喜び、殺人事件への不安、アメリカの未来を見つめる場面と、それぞれラナの心理描写が巧みに表現されていたと思います。

 戦争、テロ、報復など、訴えていることとは裏腹に、爽やかな印象でエンディングを迎える映画。ミシェル・ウィリアムズの魅力も満載だ。

【2006年2月映画館にて】

kossy