劇場公開日 1986年4月12日

「ゾンビという哲学」死霊のえじき 吹雪まんじゅうさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ゾンビという哲学

2025年1月22日
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鑑賞方法:VOD

怖い

興奮

ロメロのゾンビ3部作の3作目。本作において、ゾンビはもはや恐怖を煽る舞台装置を超えた哲学となった…。

ロメロのゾンビ映画特有の、人間同士の諍いが非常に荒々しく描かれています。あまりの胸糞悪さに少々嫌気がさすほど。暴君然とした大尉に、マッドサイエンティストといった濃いキャラクター達が内輪揉めを繰り広げます。ラスト、大量のゾンビの襲撃によりカタルシスは得られますが、それまでは結構しんどかったです。

ゴア描写の過激さは過去一と言える程。特殊メイクはトム・サヴィーニ。「ゾンビ」「クリープショー」等、他のロメロ作品でも素晴らしい仕事っぷりを発揮している彼ですが、本作における思い切ったゴア描写とアイデアの数々は、SFXの限界への挑戦状を叩きつけているかのようです。

本作におけるゾンビは、グロテスクな容姿や暴力、感染といった恐ろしさだけでなく、人間の醜さを暴き出す抽象的な存在として描かれております。「生ける屍」という一つの概念を投じることで物語が動き出す。これはロメロの発明に間違いないかと思いますが、本作においてはその点をとことん突き詰め、倫理を問い、議論を起こさせる哲学にまで昇華させています。

ゾンビは人類に対する罰なのだろうか?何をもって死と生を判断するのか?「人」たらしめているものとは一体何なのか?その多くに答えを見いだせずにいるからこそ、ゾンビ映画は面白いし、今後も作られ続けるのだろうと思います。

最後に、wikiに興味深い一文がありましたので転載します。

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7年前に制作された前作『ゾンビ』に引き続き、ダリオ・アルジェントと共同で制作する予定であったが、ヨーロッパの通貨に対して米ドルが高騰したため、アルジェント側からの協力が得られなくなった。単独で資金を調達することになったロメロは脚本を大幅に変更し、規模を縮小して本作を製作した。

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なるほど。多分本当にやりたかったのは後に製作された「ランド・オブ・ザ・デッド」のような作品だったのでしょう。しかし、規模を縮小したからこそ出来た演出、脚本は非常に優れたもので、私はこれで良かったんじゃないかなと思っとります。

吹雪まんじゅう