「赤い靴履いてた男の子~♪」キンキーブーツ(2005) odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
赤い靴履いてた男の子~♪
日曜劇場の「陸王」も似たような老舗の足袋屋の復興ものでしたが希望とかチャレンジが絡む話は万人の胸打つ王道ですね、例えキンキーブーツづくりでも応援したくなるから不思議です、サイドストーリーの性差別問題も大上段に構えず露骨なメッセージ性は抑えてユーモアで包む演出も好感がもてました。
映画化のきっかけはプロデューサーのニック・バートンがBBCのドキュメンタリーで靴屋の再建の話を観たことでした、男性でも履ける婦人靴の依頼で活路を見つけたのは事実ですがドラッグ・クイーンのローラは実在せず脚本の賜物です。地味な工場と派手なショーパブのコントラスト、キャラクター設定とキャスティングの妙も秀逸です。
主人公チャーリーを演じたジョエル・エジャートンは気弱な若社長にぴったりですがなんといってもローラ役のキウェテル・イジョフォーのゲイ達者ぶりには目を見張るものがありました、歌に踊りに加え繊細さと男気を併せ持つ難しい役柄、全身脱毛とエステで見事に変身して魅せてくれました。おかま嫌いのドンとの、腕相撲で華を持たせるところなど心憎い演出、子供の頃の赤い靴のプロローグと長じてからの同じようなシーンの重なりも唸りますね、映像作家の手腕とはこういう所を言うのでしょう。
ヒール役がフィアンセというのも珍しいですがニコラ(ジェミマ・ルーパー)は性格と容姿が一致しており若社長の励まし役のローレン(サラ・ジェーン・ポッツ)と好対照、なんと分かり易いキャスティングでしょう。
真摯で熱意のある製作陣の取り組みも見事です。モデルになったW.J. Brookes Ltd社のあるノーザンプトンはロンドンから北へ車で2時間の片田舎ですが老舗のシューメーカーが集まった靴のメッカです。撮影は19世紀の建物が残る同業者のTricker’sの工場を三週間借り切って行われたようです。企画段階からプロデューサーや脚本家は熱心に工場に通い靴作りをくまなく見て回り構想を練ったようです、映画には実際の職人さんもエキストラで出ています。同様にドラッグ・クイーンたちのショーパブシーンも実際の女装趣味の人たちが客として参加し、感想や意見が多く演出に取り入れられたとのこと。このような真摯な映画作りの姿勢があってこそ見事なリアリティが描けたのでしょう。