隠し剣 鬼の爪 : 映画評論・批評
2004年10月16日更新
2004年10月30日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー
時代は動くが継続されるものはある
山田洋次監督後期のライフワークになるかもしれない、幕末の弱小地方藩を舞台とする藤沢周平原作時代劇の第2弾である。「たそがれ清兵衛」はもちろん、東京下町の風情とテキヤ稼業が主題の「男はつらいよ」シリーズでもそうだったが、山田洋次の映画は僕らにとって“近くて遠い世界”を呈示するものとしてある。
たとえば、物語の本筋の傍らで、時代の変動期における近代=西洋的な武器の導入とそれに伴う西洋風の軍隊形成の過程がていねいに描かれる。近代=西洋化を進める日本は、時代劇的な世界の終わり、すなわち僕らが現在生きる世界の到来を予感させる。だけどその一方で、日本人の伝統的な身体や価値観が西洋化に直面して滑稽なまでに混乱する模様は、この時代の日本が僕らにとって遠く隔たった世界であったとも教えてくれる。なにせ、すり足での移動を習慣としていた武士たちは、普通に手足を上げて行進することさえできなかったのだ……。
こうした幕末日本の近くて遠い世界を舞台とする物語は――少しばかり甘い言い方を許してもらえるなら――それでも男女の営む恋愛は昔も今も変わりなく継続されている、といったことを僕らに示して結末を迎え、個人的には前作にはなかった涙が出そうになる瞬間を迎えたのだった。
(北小路隆志)