「激怒した原作者の批判も空しく高い評価を受け続ける鬼才の名作ホラー」シャイニング TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
激怒した原作者の批判も空しく高い評価を受け続ける鬼才の名作ホラー
今や古典的名作となった巨匠スタンリー・キューブリック監督による傑作ホラー。
作品の評価もさることながら、原作との乖離が作者スティーヴン・キングを激怒させたことでも有名な本作。
納得がいかないキングはのちに自身の主導で、より原作に近い内容のTVムービーを製作しているが、そっちは見てない。
原作の解釈を巡る衝突は『惑星ソラリス』(1972)のケースも有名だが、監督のアンドレイ・タルコフスキーと直接対峙して知的に口ゲンカしたスタニスワフ・レムに較べると、キングの態度はちょっと大人げないようにも思える。
主人公の父親ジャックを演じたのは、名優ジャック・ニコルソン。
彼はホテルに到着して間もない時点で不安定な様子を見せ始めており、そのせいでその後のジャックの暴走が悪霊の感化というより本人の内面(精神)の破綻が原因という印象を与え、作品をオカルトホラーではなくサイコスリラーの色調に染めている。
キングは当初からニコルソンのキャスティングにも反対していたそうだから、彼の悪い予感は的中したことになる。
原作は未読だが、諸資料によると主人公らが持つ「シャイニング」と呼ばれる超能力と古いホテルを支配する悪霊の存在が作品の不可欠なモチーフになっているそう。
超能力も霊魂も肯定では、言葉は悪いが何でもありな世界観。キューブリックはその「何でもあり」の物語からスピリチュアルな要素を敢えて抑えることで、結果的にホラーでありながら理知的で格調の高い映像作品として成功させているように感じる。
何度目かに観た際に、主人公ダニーの容貌が『2001年宇宙の旅』(1968)でボウマン船長を演じたキア・デュリアと重なった憶えがあるが、あらためて鑑賞すると、ダニーとジャックと邪悪な意志を持つホテルとの関係が、同作のボウマン、HAL-9000、モノリスの関係性に相似するような気も。
本作のラストでジャックの魂が悪霊の世界に取り込まれたことを暗示する1921年の謎めいた記念写真も、『2001年…』のラストシーン同様、輪廻思想を連想させる。
ジャックの妻で子供思い(といってもチェーンスモーカーでダニーの前でもタバコ吸い続けるし、ピーナツバター・サンドイッチなんか食べさせてるし)のウェンディを演じたのは昨年他界したシェリー・デュバル。
R・アルトマン監督の大コケムービー『ポパイ』(1980)のオリーブ役なんてのもあるが、久々に観ると本作での彼女の演技はチャーミング。
ニコルソンより怖いと評される絶叫シーンばかり話題になるが、作品の評価に貢献してると思う。
不安を煽るオープニングの不気味な音楽は、公開時ベルリオーズの幻想交響曲と紹介されてたように記憶していたが、あらためて調べると異なる曲名が。
クラッシックに疎いのでよく分らないが、本当はどうなの?!
NHKーBS4Kにて視聴。