「人間のしぶとさと多面性」七人の侍 かつのじょうさんの映画レビュー(感想・評価)
人間のしぶとさと多面性
言わずと知れた不朽の名作とは知っていましたが、実はちゃんとスクリーンで観るのは初めて、というものです。
「ごろつきの暴力にあえぐ百姓の村を男気ある七人の侍が助ける話」だと思い込んでいましたが、そんな単純な内容ではまったくありませんでした。
休憩をはさむほどの長い作品なので、名高い(?)たたかいの場面にいたるまでのいきさつが非常に丁寧に、時間をかけて描かれていました。
百姓たちが用心棒の求人活動で町を訪れる場面で、「腹が減りゃ、クマだって山を下りるだ」という台詞があり、まさか現代日本人がこの台詞に震えあがる日がくるとは、さすがの黒澤明監督も予想できなかっただろうなぁ、なんて思いました。
前半は、腕に覚えありの食い詰め浪人たちが、人の縁があったとはいえなんの利もない仕事のために仲間になるのが、不思議でもあり、頼もしくも感じました。(腹いっぱいのゴハンが報酬とはいえ)人はパンのみで生きるものではなく、自分の能力を活かして働ける場=自尊心の満足、が必要なんだなぁと思います。
後半は、「助けがなければ何もできない烏合の衆」だと思っていた百姓たちが実は一番しぶとく、どんな災害もうまくやりすごして日常生活を守っていくんだ、こうやって歴史は続いていくんだ…というのを、空恐ろしくさえ感じながら思いました。
時間は短いながら鮮烈な印象を残す「娘」「妻」の場面も、この状況で??という人間の欲望をギラギラと映し出していました。
野武士の視点はゼロだったので、彼らは「マッドマックス」「北斗の拳」の悪役よろしく惨殺してもスッキリするだけの扱いですが、百姓たちが竹槍でめった刺しにする場面は「八つ墓村」の落ち武者惨殺シーンを思い出して恐ろしかったです。
人間にはいくつもの顔があり、複雑で不条理で、矛盾を内包しつつもうまいこと自己弁護しながらしぶとく生きていけるんですね。
うまくいかないことに直面した時、大人しく自分を責めて自滅してしまう人たちには、この百姓たちを見習って強く生きて欲しいものです。
