劇場公開日 1954年4月26日

「黒澤明の最高傑作」七人の侍 かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0黒澤明の最高傑作

2024年11月26日
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監督脚本は"世界のクロサワ"黒澤明。

【ストーリー】
時は戦国末期。
戦乱につかれ、国内はことごとく荒れ果てていた。
あるうらぶれた寒村に、くり返し野伏たちの集団がおとずれ、狼藉をはたらいていた。
「このままでは村が滅ぶ。侍をやとって、用心棒として来てもらおう」
長老の儀作と若い利助は、町に出て侍をつのるがうまくいかない。
そんな折、盗賊が人質をとって家屋に立てこもる事件がおこる。
そこに居あわせた初老の侍が、髪を落とし、僧のふりをして盗賊を斬り伏せ、鮮やかに解決する。
男は島田官兵衛。
負け戦をいくつも重ねた、浪人であった。
官兵衛は仲間をあつめ、合計七人の腕におぼえある侍たちと、村を守る戦いにその身を投じる。

初めて見た感想は、
「長い」
「侍じゃなくて農民の話じゃん」
でした。
5年ほど漬け物にしておいて再鑑賞したら、まったく逆の感想になってました。
そのあいだに『用心棒』『椿三十郎』『羅生門』『隠し砦の三悪人』『乱』『影武者』『生きる』『赤ひげ』『蜘蛛の巣城』なんかをつづけて見ていて、どれもすごくおもしろくて、これはふたたび見なおさねば! と鑑賞したわけですが。
いい。
まあこれがめっちゃいい。
侍たちの生きざまも、農民たちの苦しみも、それぞれ一方向にギュッと集合して流れてゆく重厚な群像劇で、そりゃジョージ・ルーカスや秋山瑞人が新作に取りかかる前に、必ず一丁見なおすわと。

剣戟も野伏との戦いもタイミングがリアルで、この映画の影響で時代劇でリアル侍ムービーがたくさん作られたそうです。
こだわりのあるアクションのために、殺陣師、いわゆる剣術の振付に、本物の古武道の達人を呼んでます。
香取神道流の杉村嘉男さん、その後黒澤作品はじめ数多くの映画やドラマの剣戟指導を担当されたとか。
この方、国際古武道団体から、十段の称号を贈られてます……かっけえ……。

初期の黒澤映画は架空の舞台がおおく、この七人の侍もその一つなんですが、それでも説得力と生々しい生命感をおぼえるのは、演技演出を徹底しておこなうから。
数多い登場人物の、いずれもおざなりには撮られておらず、中でも傑出してるのは黒澤作品ではおなじみの侍頭・志村喬さんと、菊千代役の三船敏郎。
お二人とも、演技もいいけど剣戟もいい。
仲間を集めるあたりなんか、肉体の操縦術や身体能力の高さがうかがえて、見返したらたまらんですな。

撮影時のおもしろエピソードとしては、村が襲われて村人の女性が背中を矢で打たれて倒れたシーンに黒澤監督、
「殺された者があんな声をあげるわけがない!」
と撮り直しを要求したら、やられ役の女優さんがもろ肌脱いで背中をむけて、
「刺さってるでしょうが! 血が出てるでしょうが!」
とケガした部分をズイズイ見せてきたという。
なんか、防護用の板を入れてたそうですけど、ちょっと貫通しちゃってたんですって。あぶないね。
あんまりの迫力に、黒澤監督めずらしく主張をひっこめて、そのシーンは無事そのまま使われることになったそうです。めでたいね。

世界中の映画ランキングに入りまくる、日本映画の稀代の傑作。
白黒と嫌わず音が悪いと避けず、今からでもぜひぜひ見てほしい大傑作ですよ。

かせさん