「善さと不条理みたいなもの」七人の侍 kazuyaさんの映画レビュー(感想・評価)
善さと不条理みたいなもの
【あらすじ】
戦国時代後期の日本は、士農工商の身分はすでにはっきりと現れかつ戦に負けた武士たちも多く、野武士と呼ばれる盗賊団になる集団も蔓延っていた。野武士が村を襲うことを画作していることを知った農民たちは、村を守るため、下級武士に村の護衛を依頼することを思いつく。十分な報酬を準備できるわけのない仕事であったが、話を聞いた勘兵衛がその話を承諾する。米を作っているはずの農民は稗しか食べられず、その米を食べる武士が農民を守らないのか?という不条理を考えるのである。
こうして仲間探しを始める勘兵衛であるが、彼自身の人柄もあり、村の護衛に必要と思われる7人は次第に揃う。
農民は武士に護衛を依頼をしつつも、抑圧する階級である武士に不信と恐怖を持っており、村に到着した一行をまったく歓迎しない。そこで、一味に加わっていた菊千代は野武士の襲来を装い農民と武士との対面させることに成功すると、野武士の攻撃に備え準備を進めていく中で、この両者の結束が生まれてくる。けれども互いを知るほどに、農民への武士の不信、また逆の武士から農民への無自覚な侮蔑も炙り出された。
いよいよ野武士が襲いかかってくる。勘兵衛の優れた統率力で徐々に野武士は数を減らす。しかし戦況は悪くないながら、農民と武士も痛手を負う。最終決戦を終え、野武士を撃退した村に残ったのは、田植えを始める農民と、3人の侍であった。
【感想】
そのタイトルは聞いたことがありながら、見たことがない名作と呼ばれる映画。こういうものは、結局のところ観た方が良いんだなと、素直に思いました。200分越えの長編ながら、飽きるということがなかった。本当にすごい映画なんですね。すごく面白かったです。
何が面白いのか。登場人物の魅力ということを挙げたいです。勘兵衛を始め、7人の武士たちはそれぞれにはっきりとした個性を持っています。経験豊富で統率力があり、大きな器と線を引く決断力を持った勘兵衛(志村喬)が1人目っていうのが良いんでしょうね。他の武士がその人となりを信頼していくように、こちらもついつい勘兵衛の行動に引き込まれていくんです。その勘兵衛を取り巻く6人についても皆が魅力的で、例えば農民出身の菊千代(三船敏郎)には野蛮でありながら、弱者であったが故の純粋な正義感には心打たれるものがありますし、五郎兵衛(稲葉義男)勘兵衛をサポートする大らかな存在感もそうですし、とにかく農民も含め、それぞれが魅力的。そこに個人単位の交流が描かれるのも微笑ましくて良いんです。
けれど、次第に登場人物だけでなく僕らも驚くような事実が垣間見えてきます。虐げられるだけの存在のように見えた農民の思わぬ強かさと残酷さ、一番若く、若いが故に農民の女との恋沙汰で問題を起こす勝四郎(木村功)など、それぞれの個性でありながら、しかし普遍的に人間が持つ善と悪。常にその両面を持った存在である人間が映画には描かれていきます。途中、戦に備えて旗を作るシーンがあります。武士を表す6つの○と△がひとつ、そして農民全部を表すおおきな「た」の文字。これは、それぞれのキャラクターが持つ善徳と悪徳を表すような象徴性を持っているようにも思えました。
昔の映画ですし、台詞もよく聞き取れなかったり、カツラのクオリティも最初は気になったんです、正直。けれどそんなことは問題ないんでしょうね。
ダイナミックな戦闘シーンもちろんすごいです。けどもっと良かったと思うのは、今の僕たちにも共感できるような人間の善さ醜さが、魅力的な登場人物を通して素朴でリアルに感じられることです。
合間に挟まれる「休憩」のインパクトもすごい、、!