劇場公開日 1991年3月30日

「愛と夫婦について。大人のための濃い傑作」シェルタリング・スカイ xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0愛と夫婦について。大人のための濃い傑作

2020年6月16日
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公開当時観て、また何十年ぶりかに観賞。古びない美しさに、圧倒された。本物。ベルトルッチ監督の哲学と美学が凝縮されて、また坂本龍一の忘れられない旋律、切ないくらい美しい。砂漠の波紋、そこを行くキャラバン。圧倒的自然美。全ての相乗効果で出来上がった傑作。大人の映画。
夫婦といえども、男女の愛情の真実というものを濃く深く求めていくところが、切なすぎて辛過ぎて、もう一度観るのはきっと耐えられないだろう...

「男女の愛」と夫婦という制度は、本当は全く別物。それを一つにしていこうというのは、人間の理想というか、幻想信仰。でも現実と思いたい気持ちは、西洋文化の方が色濃いのかもしれない。人間の中にある性愛。野性的部分と知性的部分は、現実の世の中にも交錯している、本当は怖い部分。この映画に出てくる砂漠、通りすがりのキャラバンは、心象風景でもある。

有限の、脆い命。共に生き抜いていく連れ合いがいたら、どれだけ心強いことだろう。夫婦とはそうであってくれと思う。しかしその二人が信じ合うことが、いかに難しいか。変わらぬ愛、など本当にあるのか。いや本当の相手は他にいるかも。見つけなくては。と、なんか本物の愛を見つけ「なくてはならない」と無意識の強迫観念が、映画を通して、じわりと覆いかぶさる。

主人公たちは相手の愛を試すかのように、壊してしまいかねないことをして、強度を確かめている。
でもそんなお試しも、疫病というまさに今に通じるような予期せぬ事態に、本当の危機に晒され、うろたえる。

死を前にしてはじめて、人は本当の姿を現す。

でもたとえ、信じ合えるとわかったとしても、守り合えるシェルターの、動かぬ平和の下で、ずっと生きていけるだろうか。どこからともなく生まれる閉塞感。ありがたいシェルターさえ、檻になる。檻の鍵が開いていれば、ふらふらと出ていくだろう。それが、自然なことだから。
一緒にいたいと思える相手と、一緒にいられる時間を大切にする以外に、できることはない。ずっとは続かない。諸行無常。

本当に辛い映画だけれど、今の時代は、このような濃い作品は作られなくなった気がする。これを真正面で受け止めるには、精神力と体力が要る。ますます減っていくだろうか。
今回ギリギリだった...

xmasrose3105