エレニの旅 : 映画評論・批評
2005年4月28日更新
2005年4月29日よりシャンテシネほかにてロードショー
ギリシャ現代史と神話的物語が鮮やかに交錯する
赤軍にオデッサを追われ、帰国した難民たちは、新しい村を築く。そのニューオデッサが最初に姿を現す場面は、村が河の恵みを受けて発展したことを物語ると同時に、河を源とする神話的な物語の始まりを告げる。いや、物語はすでに始まっている。エレニと恋に落ちたアレクシスは、いつか河のはじまりを探しに行こうと囁くが、それは叶わぬ夢だ。エレニが密かに双子を出産し、小舟で戻ってきた時に、彼らの運命は決まっているからだ。
アレクシスの父スピロス、アレクシス、そして彼のふたりの息子たちは、ライオス、オイディプス、エテオクレスとポリュネイケスに対応している。この映画では、ギリシャ現代史と神話的な物語が、妻であり母であるエレニの視点を通して鮮やかに描き出される。
ホメロスが詠った河の神オケアノスは、万物の始まりにして、河や泉、海さえ生み出す壮大な流れだったが、エレニはそんな神に見離されたように水に翻弄される。ニューオデッサは大洪水で水没し、投獄を経験した彼女は、幻覚に囚われて看守に水を求めつづけ、内戦で敵味方となる運命を背負った息子たちは、河の辺や水没した家で息絶える。これはまさに、20世紀を描いたギリシャ悲劇なのだ。
(大場正明)