「原色から白へ」Dolls(ドールズ) yutakさんの映画レビュー(感想・評価)
原色から白へ
【80点】
個人的には非常に好みの映画でした。サバサバしていて嫌みのない画面展開には北野監督の人柄が出ている気がします。人物を真正面から撮ったり、え? と思うような合成を使ったり、画面があっさりしすぎているところに、どことなく素人臭さが漂っているのが難点でもあり、また、その思い切りの良さがかえって独特のモダンな魅力にも繋がっている感じがしました。
この作品には中心となる西島秀俊の道行を含めて3つの恋愛物語がありましたが、それらの共通項となるものは障害者だと思います。まず、ヒロインの菅野美穂の役柄が精神障害者でしたし、深田恭子の演じるアイドルに想いを寄せるファンの武重勉は、盲目の身体障害者でした。そして、かつての恋人と再会する三橋達也は、ヤクザでしたが、ヤクザをこの位置にもってきたというのは、恐らく社会的な障害者としての意味合いだと考えられます。障害者がこの作品にとって重要な役割を担っていることは、実際の身体障害者であるホーキング青山を起用していることからも明らかだと思います。
映像に関して特徴的だったのは、西島秀俊の黄色い愛車や、ヤクザたちのカラフルなファッション、なにより二人の道行きの美しい色彩に表れているような原色の強調です。このような色彩にはどのような意味があったのでしょうか? 見たところそれぞれの色自体に意味づけはなさそうでしたから、これは強い色を使ったという行為自体に意味があると考えられます。つまり、これらの色彩は、最後に色のない白い雪景色で結末させるための伏線だったのです。物語が白いウェディングドレスから始まったことを考えると、白による始終の対応が意図されているのかも知れません。
ところで、放浪中の菅野美穂が小綺麗すぎることに違和感を覚える向きがあるかも知れませんが、この物語はあくまで浄瑠璃の道行だったのですから、人形はいつも綺麗で当然なのです。また、盲目のファンもヤクザもあっけなく死んでしまうことに失望する方がいらっしゃるかも知れませんが、それは浄瑠璃のフィクション性に対する厳しい現実性の対照だから仕方ありません。
あるいは、結末で西田・菅野の二人がハッピーエンドを迎えることを前提として全体が構成されているのなら、他の二つの物語はバッドエンドでないと臭すぎて釣り合いが取れないということがあります。そんな話だったら照れるでしょう。つまり、二つの物語は西田・菅野の幸せな結末のための犠牲だったということです。監督に照れ隠しのような感情があったことは、浄瑠璃を使って観客に物語のフィクション性を意識させ続けたことや、大事なラストで二人に滑稽な命拾いを演じさせたあたりから、あり得るのではないかと思います。そういう謙虚さのある監督だから、軽薄な芸術ごっこに陥らずに実のある映画を創ることができるのだとも思います。