「抑制の内に胎動するコメディ」Dolls(ドールズ) 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
抑制の内に胎動するコメディ
たまには愚直な映画を撮ろう、という北野武の志をぼんやり感じた。登場人物たちは誇張的な話法で平凡な言葉を語るし、物語の山場と受け手の期待は気持ちいいくらいピタリと符合する。『ソナチネ』のような暴力的な緩急はほとんどみられない。場面と場面は言葉こそ少ないが明示的なモンタージュによって接続されていて、とにかく見やすい。いい意味でも悪い意味でも。監督お得意のアイロニーも今回ばかりは焦点が大きすぎるというか、わかりやすく大雑把だった印象。
あと、やっぱり北野武という監督はコメディアンとしての宿命のようなものを背負っているのだなとも思った。たとえば殴殺された盲人の男の血液が警察によって拭き取られているとき、うっすらと男の顔が画面に浮かび上がるシーン。あれなんか編集しながらゲラゲラ笑っていたに違いない。ラストカットの雑すぎる合成映像も同様だ。
これだけ平坦なトーンにもかかわらず、物語の随所で不謹慎にもコメディがちらつく。これはもう北野監督の抗い難き本性というか、コメディアン魂ゆえなんじゃないかと思う。思えば社会に背を向けて貧しい遁走生活を送る二人が山本耀司の洗練されたモードファッションに身を包んでいるというギャップからしてコメディそのものだ。
とはいえコメディであれば本作以外の北野映画のほうがよっぽど洗練されていて完成度も高い。この作品でなければならない理由、みたいなものは残念ながら感じ取ることができなかった。
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