「俺は狂ってる?」ザ・クレイジーズ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
俺は狂ってる?
何が起こっているのかさっぱりわからない住民の心理状況をそのまま再現したような展開。発端は田舎町エバンスシティで男が発狂して妻を殺して自宅を放火。二人の子供のうち、一人は死亡した。そんな大騒ぎの中、街には防護服を着た軍隊が現れ、伝染病対策のごとく、3613人の住む町をロックダウンして、完全隔離政策を取る。夜中の出来事でもあり、叩き起こされた住民たちはわけもわからず高校へと移動させられる。
実は数日前に墜落事故が起こり、そこからウイルスが流れだし、井戸水などに浸透していったらしいのだ。政府と軍は隠蔽工作のため躍起になっていたのだった。とりあえず主人公は元グリーンベレーのデヴィッドと恋人ジュディ。そして友人のクランク、キャシーと父親の5人の逃亡劇となっているが・・・それぞれ狂ってるのではないかと疑心暗鬼となり・・・
住民側の視点と軍の視点の両面からまるで再現ドラマのような趣を見せ、何が起こっているのかわからない恐怖と、ひたすら隠蔽して感染を抑えようとするドラマなのです。発狂させるか死に至らしめるかというウイルスはどんな研究で作られたのか、どうして事故が起こったのかは会話だけなので真実は闇の中。感染経路や潜伏期間(少数例で1日か2日とは言ってた)もさっぱりわからないままだ。ひょっとしたらウイルスなんてものは存在していなかったんじゃないかとも匂わす展開が興味深いところだ。
軍の出動によって恐怖から狂気へと変貌し、やがて民間人と軍との戦争を思わせる内容といい、軍は市民を護らないといったテーマも垣間見える。狂った人たちも単なる偶然、抑圧による精神的苦痛によるもの、いくらでも考えられるのだ。異常事態による人間の心理や、核兵器まで投入しようとする政府の横暴さ、生きるための戦いと隠蔽するための戦い、心の醜さと生存本能が混在するストーリーは終盤になって冴えてくる。
ゾンビを使わない感染モノ。敵ウイルスが見えない恐怖。やはりロメロの偉大さがちょっとだけわかる作品だった。ただし、ホラーやサスペンスといったものは感じられないし、高校に集まった若者たちが楽しそうにしていた点など不満点もいっぱい・・・
ラストのテーマソングはBeverly Bremersの「Heaven Help Us」で、キャロル・ベイヤー・セイガーとメリサ・マンチェスターの共作。ベトナム戦争時の痛烈な反戦歌の歌詞を見ると、この作品にとても合っていた。