「確信を得た」珈琲時光 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
確信を得た
クリックして本文を読む
やはりこの人、かなりの電車好きだ。これまでの台湾で撮ってきた作品にも当地の鉄道と、それが溶け込んだ風景が映されていた。今回は東京。子供の絵本にもよく出てくる御茶ノ水駅の立体的なショットが何度も出てくるのが象徴的で、都電、山手線(と並走する京浜東北線)、東急洗足池駅など、登場人物はフィルムの大部分を電車に乗っている。
鉄道に乗るということは、通勤通学のような日常生活の側面と、見知らぬ土地や懐かしい土地へ向かう非日常の側面を併せ持つ。一つの車両に、その両方の乗客を乗せているという意味でも、一人の乗客にとってその移動が持つ意味が両方であるという意味でも、この二側面は常に同時に現れるのだ。
主人公の一青窈は、結婚する予定のない相手の子を身ごもっている。しかし、彼女は以前と変わることなく、台湾の昔の作曲家について調べるという、フリーライターの仕事を続けている。自分の運命を受け入れて淡々と過ごす彼女に対して、両親は沈黙という形でその妊娠の事実と彼女の決断を受け入れるのだ。
この一青窈の生活自体が鉄道に乗る二面性を持つ。変わらぬ日常生活を生きる中で、父親のいない子を産むという非常な決心を抱いているという意味で、日常と非日常が同時進行するのである。
穏やかな日常に含まれる、その日常そのものが崩れ去る契機。それを淡々と受け入れる人々。多くの小津作品で描かれてきたドラマがここに再現されたのならば、本作は成功作と言えるのだろう。
コメントする