「怖そうと思って躊躇している人も観て平気」シティ・オブ・ゴッド つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
怖そうと思って躊躇している人も観て平気
物語前半はとにかく唖然とした。
ギャング・マフィアものの作品ということになるだろうが、過去のどんな作品よりも混沌としてルールなんかない。正義などはなく、悪か、どちらにも加担しない者しかいない。警察でさえ例外ではないのだ。
そんな地上の地獄とも言えるような、見捨てられたエリア、神の街に現れた最凶の男リトル・ゼを、主人公ブスカペの目を通して語られる。
リトル・ゼは神の街という環境が産み出したのか? それはもちろん否定できないし、その発端であるのは間違いないが、最初に語られる三人組が、ブスカペが言うように、ただのチンピラだったことをみても、街が直接産み出したのはチンピラだけだ。
三人組は金を奪ったりするが、子どもに悪事をさせることもなく、銃は持っていても人殺しは良くないと認識していた。そんな三人組の背中を見て育ったリトル・ダイスは持たされた銃を使わずにはいられなくなる。
そして平然と人を殺し銃をばら蒔くリトル・ゼの背中を見て育ったチビ軍団は、第二第三のリトル・ダイスとなって拡散していく。
割れた窓が一つあれば他の窓も割られる割れ窓理論と同じで、始まりは悪いことだと認識しての悪事も、次の世代にはただの悪事になり、更に次の世代では常識となる。
ただの貧困地域も生きることに心底困窮すれば、次第に地獄に変わっていく、恐ろしい負のスパイラルを見た。
作品の内容だけではなく、本作はあらゆる面からも素晴らしい。
序盤は映画としても物語としても、どこか混沌としていてよく掴めないのだが、街の混乱と反比例するように、終盤になるにつれ映画は整然としていく。
荒々しいカメラワークの60年代から徐々に現代的なカメラワークへと変わっていく、時代ごとの撮り方の変化や、終盤に繋がっていく物語構成の妙が、混沌から整然への理由だと思う。
三人組のパート、リトル・ダイスが戻ってきて街を牛耳るまで、仮初めの平和からベネが死ぬまで、抗争のパート、と、大体こんな感じで区切られていて、それぞれの中に起承転結、とまでは言わないが、独立したストーリーとして成立している。
後のパートはそれまでのパートを踏襲し内包し進むので、後半になればなるほど厚みが増していくのが凄いし、物語が整然としていくのだと思う。
オープニングで、ギャングと警察に挟まれてピンチになる主人公だが、終盤でまた同じ場面になる。
最初に見たときと終盤で見たときとではピンチの意味が少し変わる。
そんな感じで同じ場面を、時間を遡ったり、一方その頃こちらではのようにしたりして、何度か使われているのは面白い。
新しい意味が付与されたり視点が変わったりするし、最初に書いたオープニングの場面が一番外側にある大きな遡りで、その中に小さな遡りが入っている入れ子構造的な作りも面白い。
主人公はブスカペで物語の中心はリトル・ゼ、1つの映画の中に4つの物語が入っている群像劇のような構造、これらの要素のため、この作品の中には、サスペンス、スリラー、歴史、バイオレンス、戦争、青春、ロマンス、コメディなど、あらゆるといっていいほどのジャンルが含まれていることに驚く。
そして音楽もまた素晴らしい。
バイオレンス系が苦手なことや、映画にエモーションを求める自分は、手放しで絶賛は出来ないけれど、これはもう、完璧な傑作ってことで、いいんじゃないか?
うん、完璧な傑作。