「「無」に葛藤する「アイデンティティー」から「有」に葛藤する「スプレマシー」。」ボーン・スプレマシー すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「無」に葛藤する「アイデンティティー」から「有」に葛藤する「スプレマシー」。
○作品全体
『ボーン・アイデンティティー』は「無」から始まる物語だった。記憶も居場所も信頼できる人も「無」。そこからそれぞれを手に入れ、「アイデンティティー」を再獲得し一作目は終わる。
そして『ボーン・スプレマシー』では再獲得した「アイデンティティー」たちに更に対峙する。手に入れたラストミッションの記憶に加え、脳裏に明滅するファーストミッションの記憶。手に入れた愛する人と「世界の裏側」にある安息の地、そしてその喪失。作中終盤にファーストミッションで殺害した人物の娘へ会いに行くシーンがその2つをリンクさせ、状況が変化したボーン自身の「アイデンティティー」とも向き合う状況を作り出していたのが見事だった。
そのシーンでボーンが話す「愛する人を失ってから見えるもの」と「真実を知りたい」という感情は相手に向けたものでもあり、自身にも向けたものだ。2つの感情は「愛する人」と「真実の探求心」がなければ起こり得ない感情であり、『ボーン・スプレマシー』はボーンが手に入れたこの2つの感情に奔走する物語だったことを考えると、「記憶の追求」と「愛する人を奪ったものへの復讐」という本作品の2つの線がここで一つになることで、「無」ばかりであったボーンの中に確かに「有る」感情を克明に刻んでいたと思う。
○カメラワーク
・アクションシーンは映していない部分が多いな、と感じた。相手を壁にぶつけたり、首を締めるアクションでは画面外でアクションしていて音だけで表現するカットもあったり。映さないことで威力を表現する、というところだろうか。
○その他
・ボーンが危機的状況を打開するとき、その場にあるものを普段使わない方法で使う、みたいなアイデアが多い。それが自分の予想の範疇を超えるものであることが多くて、その驚きが楽しかったりした。包丁を持った相手にキツく丸めた雑誌で対抗したり、人物を特定するためのホテルの内線を覗き見する段取りの多さだったり。遠回りに見えるボーンの手段が一番現実的(に見える)なのが面白かった。