ブラッドシンプル ザ・スリラー : 映画評論・批評
2000年10月15日更新
2000年11月4日よりシネマライズほかにてロードショー
コーエン兄弟の処女作、“完璧版”で帰還
「映像の魔術師」と呼ばれハリウッドでも確固たる地位を築いたコーエン兄弟。この作品は彼らのデビュー作「ブラッド・シンプル」の完全版である。では、オリジナルとはどこが違うのか? 一言でいうと、なんと「短縮」されているのだ。具体的には音響をモノラルからデジタルに変換させているが、これは現在の設備に対応させるためのものだろう。注目したいのは、この作品がオリジナルより4分間ほどカットされ ている点だ。普通「完全版」といえば未公開シーンがつきものだが、ここでは短縮させたことでテンポが上がり、映画自体が以前の荒削りな印象から、洗練されたものになっている。つまり、これは16年前に公開された作品の「完全版」ではなく「完璧版」なのだ。では、なぜ今「ブラッドシンプル」なのだろう? これは全てのコーエン作品の源流であることは確か。ならば、その源流は完璧なものでなければならない。そこで、予算的にも余裕のある今のコーエンたちが、今回の再編集に踏み切ったのだろう。とはいえ、オリジナルはさして話題になることもなく消えていっただけに、これまで「伝説的デビュー作」と語られていたこの映画の帰還は、大いに歓迎すべきことと言えよう。
(編集部)