ぼくの好きな先生(2002) : 映画評論・批評
2003年9月16日更新
2003年9月20日より銀座テアトルシネマほかにてロードショー
カメラの視線は対象のすぐ側に寄り添う
3歳から11歳までの13人の子ども全員を1つのクラスに集めて授業する、フランス山間部の小学校の日常を感動的なまでにさりげなく、溢れんばかりの共感を込めて描くドキュメンタリー映画。同じ年齢の子ではなく、体力も知力も異なる子どもたちによって形成される“共同体”を題材にするあたり、多様な価値観をもつ人間が共存できるコミュニティのあり方に関心を寄せるフィリベール監督らしい。
作り手サイドの根回し(?)の賜物だが、誰もが不思議なほどカメラを意識しない。たとえば、休み時間にケンカで泣かされた子どもが先生に訴えに行き、それを先生が手際良く収める模様をカメラ(とそれを介して僕たち)は絶妙な位置から目撃しつづける。その際のカメラの位置どりは、先生の側にも子どもの側にも立たず、かといって中立の立場から冷静に争いを観察する……といった裁判官の視線でもない。なんというか、対象のすぐ側に寄り添うような視線なのだ。
「ボウリング・フォー・コロンバイン」のような論争含みの作品の大ヒットも喜ばしいが、ドキュメンタリーの別の王道を突き進むこの傑作を見て、そうした毒気をいったん払ってみるのもいいだろう。ここで描かれるのは、他者を他者として認めることのできる寛容な社会の縮図=理想なのだ。
(北小路隆志)