劇場公開日 2023年11月17日

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「映像と音楽にいつまでも浸っていたい。」アメリ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0映像と音楽にいつまでも浸っていたい。

2025年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

単純

≪(この映画の)好きなところ≫
★映像センス:赤・黄・緑を主とした映像の色使い。何気ない景色までもが、一幅の絵画になる。そこに、一点だけ混じる青のキレイなこと。どうして不調和にならないんだ。
★映像センス:サクレクール寺院の白。そこで行われる宝物探し・鬼ごっこ。部屋の中の雰囲気が閉じているだけに、この寺院での解放感が気持ちよい。楽しそう。
★凝りに凝った室内意匠。赤い寝室で寝れるのか?というあり得ない発想なのに、彩度・明度を下げ、深緑と、赤色光の黄を添え、落ち着いた部屋。重みのある布の存在感、シフォン素材のカーテンとか、すべての映像を語りつくしたくなるくらい。
★エリザベスカラーをつけた犬の絵と、アヒルの絵。豚さんのランプ。欲しい。
★このシーンに、この音楽!濃すぎるこの映画を軽くしてくれ、印象的。心が躍ってしまう。
★回りくどいニノとの距離の詰め方。でも、とってもわかる。(ニノに一目ぼれしていなかったら、アルバムはもっと簡単に返せていただろう。というか、そもそもアルバムを拾わない)
★残念感を表した、アメリが融けるシーン。心の中で共感の嵐が吹き荒れる。
★アメリがつけているのはオーデコロン?日常の嗜みなのか?真似したくなる。
★骨男との会話。まるで、父との関わりを取り戻しているような。
★冒頭の幼いアメリのやっていること全部。
★ウサギとクマの雲も素敵。
★犬との曲芸(白黒映像のシーン)。

ナレーション × 凝りに凝ったインテリア × 凝りに凝った色調 × クレーンで動かしたような流れるカメラワークなどの、これも凝りに凝った映像 × 変な癖・こだわりを持った登場人物 × 変なエピソード。
 『ムーンライズ・キングダム』に似ていて、初めはアンダーソン監督の作品かと勘違いをしてしまった。でも、アンダーソン監督よりも、すべてにおいて、こちらの方が濃い。抜け感までもが濃い…。

コミュ障?なアメリ。
 でも、元々は積極的な行動力のある女の子だったのだろう。
 変に行動力のある意趣返し。やられたら、必ずやり返す。自分が共感している人への嫌がらせにもとんでもない意趣返し。
 青年期になれば、さっさと実家から独立する。引き籠りにはならない。
 そもそも、コミュ障で人と関わりたくなくて壁を作っている人が、接客業を選ぶのか?仕事事情が日本と違うのだろうか?学校に行けなかった→学歴がない?人が就けるのは接客業くらいなのだろうか?倉庫番やスーパーのバックヤード、工場の方がコミュ障らしいけれど、オシャレなカフェ(アルコールも出す)の方がフランスらしい。
 コミュ障といえど、職場の人間関係はそれなりに築いているし、カフェのお客とも、それなりに。というか、癖強のマダム・店員・客の中でアメリはフォローする役…。
 でも、より親密になろうとすると、回りくどいやり方しかできない。まるで、少女漫画や韓国系恋愛映画・ハーレクイン小説から学んだかのようなやり方しかできない。相手の気持ちを確かめずに、自分の気持ち・やり方を押し付けるだけ。視線も合わせられない。
 幼い頃に関わったのは、アメリよりもコミュ障な父と母。仕事上や町内会的な人間関係は何とかなるのだろうが、情を交わすようなコミュニケーションは取れなかったであろう父と母しか、モデルがいない。それでは、こういうコミュニケーションしか取れないだろうなあ。好奇心旺盛なアメリだから、本はたくさん読んだのだろうし。

 それが、借家の中で見つけた宝箱を持ち主に返すプロセスで、マドを訪問し、骨男と会話を交わすようになり、少しずつ変わっていく…。

≪(この映画の)嫌いなところ≫
★ラストのキス以外の性的描写。
★健康に害がありそうな意趣返し。(『ピーターラビット』でも思ったが、欧米の悪戯表現て、『トムとジェリー』的カトゥーンのノリなのだろうか?)
★家宅侵入。
★のぞき見。
★独りよがりなおせっかい。
★ストーカー。
★アメリのことを心配はしているが、アメリの聴いてほしい話を聞かない父。
★問診だけで、心電図の検査とかをしないで誤診する医師。
★アメリの気持ちを考えないで、アメリにとって大切なクジラを捨ててしまう母。
★幼い子に理不尽な嘘(しかも、たわいのない戯言ではなく、重い責任)を教える隣人。そのことに悩んでいるアメリに気が付かない両親。

DVDについていた、監督のコメントによると、マドを演じられたモローさんを始め、フランスでは名だたるコメディアンや演技派が揃っているらしい。現場では、笑いを堪えて演技するのが大変だったとも(ex.マドがアメリに、元夫とのことを語るシーン)。ジョルジェットを演じられたナンティさんには「もっと、バカっぽく」と演技指導したとか。
 日本では”オシャレ”な映画と認識されているが、元々はブラック・コメディなのだろう。
 でも、困ったことに、私にはそのコメディの部分があまり合わなかった。
 期待していただけに、アメリのように溶けてしまいたい…。

とみいじょん
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