「理屈では人は変われない」2046 あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)
理屈では人は変われない
前作「花様年華」のレトロな作風から一転、今作は一人の男の空想と現実を舞台にしたやや近未来的な作風。今までのカーウァイ監督の中でも、一層私的な世界観が披露されています。よって国際的評価は乏しく、それも理解できます。でも、わたくしの完全なプライベートなレベルでは最高の作品。
この映画の焦点は、心に傷をかかえた一人の男(トニー・レオン)がそれを乗りこえるまでの過程で、複雑に絡み合った過去をほぐし、一本の糸にするまでの心象。それはYES、NOで判断できる次元でなく、自らを比ゆにして浮かび上らせた世界(小説)をあるがままにストイックに受け止めること。そのようにして、絡み合った心はほぐれるのではなく、最後に一気に溶解してしまうのです。ある意味、すごい大どんでん返しです。カーウァイ監督は、心の深い所まで降りていける人なんですね。
トニー・レオンの最初のやくざな眼差しから、心が一気に溶解した瞬間、優しくなる目の演技はすごいの一言。ここまで息をのませた演技は、個人的に「ヒート」のデ・ニーロ、「グラディエーター」のラッセル・クロウ以来。他の共演陣も(木村氏を除いて)素晴らしいです。
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