10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス : 映画評論・批評

2003年12月15日更新

2003年12月13日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

凝縮されるのではなく広がりだす10分間

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10分間という時間がテーマでもあり制限時間でもある「10ミニッツ・オールダー/人生のメビウス」に作品を提供したのは7人の監督たち。それぞれ限られた時間の中に濃密な人生を詰め込んでいてドキドキするのだが、唯一ジム・ジャームッシュだけが希薄な10分を描く。ある女優の休憩の風景だ。何が起こるわけではない。とはいえ入れ替わりスタッフがやってきて、結局彼女は食事を取ることもできない。そのせわしなさを嫌がるわけでも楽しむわけでもなく、彼女はそれに無関心を決め込みつつ半ば上の空のままやり過ごすことになる。ただ、運ばれてきたものの結局口もつけずに置かれたままの食事のプレートでタバコの火をもみ消し出て行くその所作の中に、かすかに彼女の気配が流れる。

10分間に人生を凝縮するのではなく、ジャームッシュはその10分間が、そこで描かれなかった彼女の人生すべてに向かって広がりだすような時間を作る。われわれの長い人生の中で忘れられ、決して振り返られることもない10分間。その積み重ねとしての人生。そこで示された彼女の気配と共に、私たちは彼女のその後の人生でもあり私たち自身の人生でもある大きな広がりを、そこに感じることになるだろう。

樋口泰人

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