劇場公開日 2002年11月16日

ウェイキング・ライフ : 特集

2002年11月13日更新

トリップ・ムービー特集のためのちょっと長めのイントロ

編集部

この企画でいう「トリップ」とは向精神剤、つまり、知覚に作用し、ひいては意識に変化をもたらす薬物が効いてる状態のこと。そもそも、19世紀生まれのオルダス・ハクスリーがメスカリン使用体験を分析した著作の題名は「知覚の扉」。60年代のドラッグ流行の際にもその精神は継承され、ドラッグの効果を示す用語、サイケデリックとは、サイコ=精神を、デリック=拡張する、という意味なのだ。ただ、気持ちがいいってんじゃないんであーる。

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で「ウェイキング・ライフ」。これがトリップ・ムービーなのは、まずその映像。「実写映像を、アニメ技法で加工した映像」が、「現実を、ドラッグ服用して見た光景」なのではないかと思わせるのだ。実写映像が透けて見えるのに、リアル感はまったく別もの。現実にはないなめらかな動きと浮遊感。これが、マリファナのようなゆるいドラッグ服用時の視覚体験と共通する感覚を持つ。平常とは少しだけ異なる視点から世界を眺めたら、という視覚体験を与える映像になっているのだ。

さらに、作中人物たちの行動。彼らはただダラダラとおしゃべりするだけなのだが、これが、マリファナ服用時に人々がとる行動そっくり。しゃべっている時は世界の真理を発見したような気になるのだが、後で思うと、トホホな内容なのもそっくりだ。最近の映画の例でいうと、「ヒューマン・トラフィック」のハウス・パーティで「スター・ウォーズ」の真理について交わされる会話、あれね。

なので「ウェイキング・ライフ」を観ていると、まるで、マリファナを服用しているかのような感覚に陥るのだ。

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そこで、今回は、“トリップ・ムービー”を特集。次のページで「ウェイキング・ライフ」同様、観るだけでドラッグ服用と同じような効果をもたらす映画を紹介しているので、ちょいと服用してみよう。

と特集の前振りはここまでで、あとは余談。

リチャード・リンクレイターの作品は「ニュートン・ボーイズ」以外は、極論すれば登場人物たちがおしゃべりしているだけのもの。長編第1作「Slacker」は現代、第2作「バッド・チューニング」は70年代と時代は異なるが、どちらも若者たちの日々のあれこれ。ヒットした第3作「恋人たちの距離」のイーサン・ホークとジュリー・デルピーも、しゃべっていただけともいえる。こうした、もはやドラマが起こり得ないからしゃべり続けるしかない日常を描き続けてきた作家ともいえるのではないか。

また、リンクレイターとドラッグといえば、「バッド・チューニング」の原題は「Dazed and Confused」=「クラクラして混乱して」と、もろ、ドラッグ服用時の状態。もちろん登場人物たちは服用してる。さらに彼の出身はテキサス州。60年代に13thフロア・エレベーターやレッド・クレイヨラを産んだテキサス・サイケ発祥の地なのだ。「バッド・チューニング」と「ウェイキング・ライフ」はこの地でロケ、フィルモグラフィ中では異色の第4作「ニュートン・ボーイズ」は、テキサスの銀行強盗一家の実話もの。テキサスにはこだわりがあると見た。

ちなみに同郷出身、2歳年下の監督に「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」が大ヒット中のウェス・アンダーソンがいるが、こちらはきっとテキサス嫌いだろうな。

さて、リンクレイターの新作は「ハイ・フィデリティ」のうるさい方のオタク店員、ジャック・ブラックが主演、「オレンジ・カウンティ」のマイク・ホワイトが脚本の学園コメディ「スクール・オブ・ロック」。13thフロア・エレベーターが校内放送で鳴ったりして?

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