「心が痛いリアリティとファンタシー」トラフィック(2000) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
心が痛いリアリティとファンタシー
アメリカ社会が麻薬に蝕まれ苦しむ姿は、この映画から約20年経っても少しも変わらない
麻薬問題をあつかう映画なのに小さな子供達が良く画面に映りそのかんだかい声が耳に残る映画だ
その子供達は今成人しているだろう
そのうち一体どのくらいの子供達が麻薬中毒者になってしまっているのだろうか?
子供達を守れ、誇るべき米国社会はメキシコのように崩壊した社会に転落してしまうぞとの悲鳴が聞こえる
ラストシーンの夜間照明が設置されたメキシコの公園
暗くなってもそこで野球をして遊ぶ子供達の姿と見守る家族達
それは転落した国の中でも、たった一人であっても、誘惑や脅迫に揺るがず戦い抜けば、そのような地獄の底からでも子供達を守り次世代に繋げ再生していくことは可能なのだとのメッセージだ
リアリティは麻薬組織、対策捜査の状況もさることながら、家庭内の麻薬戦争の描写にこそ嘘の無い迫真さがある
出張から帰った夫を車で迎える妻
疲れ果てて家路に向かう車中の口論
麻薬のような深刻な話ではないが、子供達が反抗期で荒れた時代の自分達家族の記憶と繋がる
身の丈で米国社会の痛みを共有する映画だ
しかしファンタシーなのだ
娘の転落を救うこと、本当の自分の仕事は娘のそばに寄り添うことにあるとホワイトハウスでの記者会見で悟る父親
メキシコの照明の付いた公園で次世代の子供達が野球を楽しむ
そんなことはファンタシーだ
それがわかっているから余計に心が痛いのだ
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