「タトゥーの少なさに時代を感じる」心の指紋 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
タトゥーの少なさに時代を感じる
『天国の門』(1980)のマイケル・チミノ監督によるクライム・ロードムービー。
先住民の混血児ブルーは16歳の受刑者にして末期の癌患者。悲惨な家庭環境や不遇な生き様などから人間不信に陥り、医学すら信じない。
ナバホの呪術者の言い伝えにすがり、担当のエリート医師マイクを人質に逃亡をはかって聖なる山の湖を目指すが…。
生い立ちや生活がまったく異なるブルーとマイク。共通点がなさそうにみえて、実はマイクの兄も小児癌で他界していた。
たびたび回想シーンが挿入されるので、その前提で物語が進展するためか、マイクの心の揺れの描き方が少々雑。
呪術者にブルーを託して立ち去るのも、医師としては無責任に見えるし、そのせいで家族に抱擁されて笑顔を浮かべるラストシーンに違和感を覚えてしまう。『ディア・ハンター』(1978)のように主人公の葛藤や喪失感に焦点を向けなかったことが、釈然としない観賞後の後味に影響している気がする。
『天国の門』でチャップリンゆかりのUAを破滅に追いやって映画界から悪者扱いされたチミノの以降の監督作品は彼の心象を反映してか、殆どがクライム・ムービー。
人種問題を絡めているが、差別されたからといって必ずしもマイノリティが犯罪に走る訳ではない。
『イヤー・オブ・ドラゴン』(1985)でも過激な演出でアジア系住民から反発を買ったのに、あまり懲りてない様子。
チミノ自身もマイノリティのイタリア系だから分かる気もするが、結局はバイオレンスがやりたかっただけという疑念も懐きたくなる。
マイク役のウディ・ハレルソンもブルー役のジョン・セタも、他の出演作の多くがクライム・ムービー。
珍しくエリートを演じたハレルソンも幼少期の苛酷な経験からか、私生活での破天荒な行動がたびたび話題に。
ところで、ウィゴ・モーテンセンと似てると感じるのは自分だけでしょうか。
それはともかく、本作でいちばん問題なのがデタラメな放題。
当時話題を集めたインチキスピリチュアル『神々の指紋』にあやかりたかったのだろうが、原題“The Sunchaser”に込められた先住民の自然崇拝や自然回帰の思いがまったく斟酌されていない。
音楽がありきたりで雄大な荒野の映像とマッチしていなかったのも残念。
BS松竹東急にて初視聴。
どうせなら『イヤー・オブ・ドラゴン』見たかった。