シュレック2 : 特集
「シュレック」はカッツェンバーグを押さえて見るとオモシロイ
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■ドリームワークス設立はカッツェンバーグの発案だった
しかし、カッツェンバーグも黙っては引き下がらない。彼にはすぐにNBCとCBSから誘いがかかったらしいが、彼にはもっと大きな野望があった。それは自分でスタジオを設立すること。彼は旧友のスピルバーグとデビッド・ゲフィンに声をかけて、ドリームワークスを設立してしまうのだ。実写部門はスピルバーグに、音楽部門はゲフィンに任せ、自分はアニメ部門を担当する。ちなみにこのとき、ハリウッドで新たなスタジオが作られたのは実に55年振り。そんな歴史的な出来事だったのだ。加えて、カッツェンバーグはディズニーに対して報奨金を請求する訴訟を起こす。この頃から、2人のお互いに対する暴言はますますメディアでも紹介されるようになる。そしてカッツェンバーグはドリームワークスのアニメ部門のために、それまでは業界でタブー視されていた、ディズニーからの人材引き抜きを敢行する。もっとも、02年にソニー・ピクチャーズがアニメ部門を設立する際にはそのトップに「シュレック」のスタッフを引き抜かれているので、因果は巡るわけだが。
しかし、ドリームワークスのアニメ部門はすぐにヒットを産みだしたわけではなかった。カッツェンバーグが製作総指揮を務めた「プリンス・オブ・エジプト」(98)の興行成績は振るわなかったが、公開当時のインタビューを見ると、彼は「ディズニー・アニメではタブーである“宗教”をモチーフにしたアニメを作りたかった」と語っている。「アンツ」(98)では主人公の声を演じるのがウッディ・アレンだが、これもディズニーでは考えられないキャスティングだろう。そんな彼にも「シュレック」は冒険だった。カッツェンバーグは語っている。
「僕が関わった映画の中でもっともリスキーな作品だ。これまでのアニメ映画の常識をことごとく覆す作品だからね。題材はおとぎ話だけど、物語にあふれているのはとても子供向きとは思えない皮肉と風刺とパロディだ。だけど、僕は現代の子供たちはこれを理解することができると思ってる」
そして「シュレック」はカンヌ映画祭に出品されて高い評価を受け、全米で大ヒット、アカデミー賞長編アニメ部門も制覇する快挙となる。しかもその物語はまるで「美女と野獣」の「裏返し」といえるもの。そして本年公開された続編「シュレック2」は超ヒットして現在、全米歴代興収第5位を記録。これは「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」や「スパイダーマン」を超える成績なのだ。しかもその打倒ディズニー・ネタは映画評でもご紹介した通り。冒頭から「リトル・マーメイド」のアリエルと同じ赤い髪の人魚をサメに喰わせるエスカレートぶり。さらにカッツェンバーグは第3作、第4作の製作を発表。今後もこの路線を押し進めていくに違いない。
しかしカッツェンバーグの進撃はどうやらそれだけでは終わらない。この10月に全米公開の新作「シャーク・テイル」は、海の魚たちによるギャング映画。声の出演も、主人公の大物を目指す町のチンピラ=小さな魚はウィル・スミス、その恋人魚はレニー・ゼルウィガー、サメのゴッドファーザーはロバート・デ・ニーロ、その部下はマーティン・スコセッシ、デ・ニーロの不肖の息子役はジャック・ブラックという布陣。またも大人のほうが楽しめるギャグ満載になっていそうな気がするが、これって、あのピクサーの大ヒット親子魚アニメに対する挑発行為?