劇場公開日 2007年4月16日

海を飛ぶ夢 : インタビュー

2005年4月14日更新

“若きヒッチコック”と呼ばれ、サスペンスフルな作風で注目を集めてきたアレハンドロ・アメナバール監督が描いた人間ドラマ「海を飛ぶ夢」は、本年度アカデミー賞外国語映画賞をはじめとるする数々の映画賞を受賞し、監督の評価をさらに高いものとした。そんなアメナバール監督と、主演ハビエル・バルデムのインタビューをお届けする。(聞き手:佐藤睦雄)

アレハンドロ・アメナバール監督インタビュー

──ベッドルームで回転するモーションカメラが素晴らしいですね。主人公ラモン・サンペドロの視点を通して、周囲の人物がきれいに色分けされている感じがしました。

アレハンドロ・アメナバール監督
アレハンドロ・アメナバール監督

「いくつかの理由から、映画の中の“時間の経過”をあまり信頼していないんだ。でもこの物語には、時間の経過が含まれているから、それを観客に見せるための、最もエレガントな方法について考えた。そして、ラモンの視点からのシングルショットで撮影するのが、最もシンプルでエレガントな方法だと思った。だから、このモーションカメラを使ったんだ。登場人物がさまざまな瞬間や状況の中で、現れては消えることができるようにね」

──サンペドロ氏が書いた原作(「Letters from Hell」)に出会った時、どんな部分が映画的なシーンになると思いましたか?

「原作本を読んだ時には、映画にできるとは思わなかった。生と死についての大きな概念についての本で、物語のある本ではなかったからね。でも、とても見事な語り口調で、感心した。冒頭で、彼は運命的な事故について描写している。とても具体的で詳細な描写だ。映画の中でも説明したように、彼が"待ち望んでいた瞬間"だったと言っている。彼のそれまでの人生が目の前を走馬灯のように駆け巡った。かつて訪れた世界の都市や愛した女性たちすべてが……。それは、20代の彼がどんな男性だったのかを想像させてくれる。僕にとって、映画の中で是非見せたいと思った力強いシーンだ。でも、本の残りの部分は彼の思考だけが書かれている」

──まさに、ハビエル・バルデムはピッタリのはまり役でしたね。

「ハビエルにはラモンのカリスマ性を表現してくれることを期待していたよ。また、観客に彼が30代であるということを忘れさせることができるかが心配だった。だがメイクアップした彼を初めて見た時、“ラモンが宿っている”と思った。彼はとてもユーモアがあり、直観力の優れた俳優なので、全幅の信頼を寄せた」

ラモンそのものになりきったバルデム
ラモンそのものになりきったバルデム

──横長のシネマスコープサイズを使ってますね。

「実験したかったんだよ。飛行のシーンのみによって、映画全体がこのサイズに値する作品になったと思っている。このサイズは、観客にとって“究極の窓”だと思うんだ。スクリーンサイズはとても大きな効果を持つ。なぜならこの映画は、現実の出来事に基づいている。ある小さな村の小さな家で起こった出来事だ。だから僕たちは、何か現実離れしたことをやらなければならないと思った。手持ちカメラを使った、粒子の荒い、自然主義的な映画撮影技術ではなく、より洗練されたスタイルに挑戦したんだ。力強いこの世界のスタイルと現実的な出来事との対比を探求したかった」

──飛行シーンではBGMとしてプッチーニの「誰も寝てはならぬ」を流していますね。脚本当初から使おうと思われていたのですか?

「自分で作曲することも一旦は考えたんだ。けれど、最初の編集の時、大好きなこのアリアを試してみたらイメージに合ったんだ。少し変更を加えて再録したら、完全に同調してくれた」

──脚本を書く時に年代順に書かないようにしたそうですが……。

「基本的に脚本は年代順に書かれている。けれども、好きな時に別の“時制”にジャンプしてもいいんだ。物語をデザインする上で最も苦労した点は、どうやったら気づかせないで室内から抜け出すことができるか、だった。そうすることで、観客に物語の中にとらわれたような感覚を与える。最終的な感想で『舞台を見たようだ』ではなく、『映画を見た』と感じてもらいたかったんだ」

インタビュー2 ~ハビエル・バルデム インタビュー
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