ナイロビの蜂 : インタビュー
原題にもなっている庭師(Gardener)を演じたイギリスのベテラン演技派レイフ・ファインズ。フェルナンド・メイレレス監督との仕事、自身が演じた主人公ジャスティンについてレイフ・ファインズが語る。(聞き手:若林ゆり)
レイフ・ファインズ インタビュー
「ガーデナー特有の精神が、彼という人間を形成しているんだ」
レイフ・ファインズが演じるジャスティンは、秩序を重んじ、ガーデニングを愛し、穏やかでやさしく、事なかれ主義の英国外交官。彼は妻テッサを失って初めて、それまで深く知ろうとはしなかった妻の人生へと、命がけの旅に出る。
「ジャスティンは少々時代遅れのイギリス人男性として描かれているが、大きな旅を経て変わっていくんだ。僕はこのキャラクターに多くの部分に共通点を見出していて、とても親近感を抱いているよ」
キャラクターはもちろん、ストーリーについても、メイレレス監督の独特なアプローチについても感銘を受けた、と彼は言う。
「これは個人的なラブストーリーを追うと同時に、政治的スリラーでもある。映画化はなかなかの挑戦だ。ル・カレの小説をメイレレスが監督するって聞くと、みんな『それはすごいけど、面白い選択だね』って言う。普通、ル・カレの原作ならトラディショナルなイギリス人監督を選ぶものと決まっているからさ。この作品が素晴らしいのは、監督がトラディショナルなアプローチとは全く反対の、独自のスタイルを確立していることなんだ。『ロシア・ハウス』なんかとは違ったスタイルをね。監督がこの作品を通して見ているのは、大企業や巨大国家と、第三世界、特にアフリカとの関係だ。アフリカのタフな、しかし鮮烈な地域での撮影を決めたことは素晴らしいと思う」
メイレレス監督独特の自由な撮影スタイルは、役者としての彼に大きな刺激を与えた。
「フェルナンドは、僕の演じるジャスティンを信用してくれた。初日にいくつか提案をすると、彼は『うん、いいアイディアだね。もっといろいろ言ってくれよ。この何カ月か君の頭はジャスティンになりきっていたはずだから』と言ってくれた。これはコラボレーションだ。演じてみながら、常に進化していく感じだよ。彼はドラマと緊張感を、編集の段階で創り出す。つまり、撮影の段階では試してみる自由がたくさんあるってことだ。それに撮影は軽量のカメラを用いて、滑らかで自由なスタイルを取っている。顔の近くに持ってきたかと思うと周囲を動き回る。だから演じていて、とても緊張感があるんだ」
ところで、あなた自身はガーデニング好き?
「僕は得意じゃないけど、ジャスティンにとっては非常に重要な要素だ。植物に対する繊細さと理解、そしてガーデナー特有の警戒心のような精神が、彼という人間を形成しているから。実は撮影前にドイツで、園芸センターを訪ねたんだ。そこでガーデナーたちに会ったんだけど、興味深かったよ。彼らは自分たちの世界にこもった内気な人たちだ。それがジャスティンにも当てはまると思う。最初のほうで、彼が植物に水やりしているのをテッサが見つけるシーンがある。彼女は、そこに彼の本質を見出すんだ。出会ったときは堅苦しい印象だった男に、突然、別の面を見つけるわけさ。僕自身もガーデニングに興味はあるけど……、やるならロンドンを離れなきゃね(笑)」