愛についてのキンゼイ・レポート : インタビュー
“セックス・レポート”で有名なキンゼイ博士を主人公にしたドラマ「愛についてのキンゼイ・レポート」。主役を演じたことで、セックスを扱うことに否定的な人間から妨害を受けたというリーアム・ニーソンにインタビューを行った。
リーアム・ニーソン インタビュー
「この役はすごく大きな挑戦だった」
聞き手:森山京子
「愛についてのキンゼイ・レポート」は、インテリジェンスのある人たちが作った映画だなぁと、つくづく思う。アルフレッド・キンゼイという猪突猛進型の学者バカを描きながら、アメリカ社会の保守性とセックスに対する閉鎖性を鋭く突き、時に笑わせ、時に泣かせる。頭でっかちでも感情過多でもなく、実に知的な映画だ。製作発表と同時に、キリスト教保守派の団体からヒステリックな妨害運動が起こったが、出演者全員、今のアメリカでこの映画を作る意味をきちんと認識しているから、ビビッて降板する人は一人もいなかった。「それにしても……」と、リーアム・ニーソンは言う。
「右派のモラリストが、僕たちを50年代に引き戻そうとする力を感じたよ。彼らは、子供たちからセックスの知識を奪い、不安と罪悪感を与えることでセックスをコントロールしようとしている。そうかと思えば、『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいに、女の人たちが平然とフェラチオについて話す番組が大成功したり、シティホールでゲイの男性が結婚する映像がTVのニュースで流れたりする。この国には、信じられないほど精神分裂症的な面があるよ」
妨害はリーアム個人にも及んだと聞いてびっくり。
「直接僕にじゃなくて、アイルランドに住んでいる母親のところに匿名のメールが来たんだ。あなたの息子はキンゼイに触るべきじゃないって、書いてあった」
でもリーアムは、こんなふうに物議を醸す作品は、「社会の変化を促すエンジンになりうるから有意義だ」と言う。ただし、キンゼイを演じることに躊躇がなかったわけではないらしい。
「この役はすごく大きな挑戦だった。というのも、自分がキンゼイを演じているところが想像できなかったからなんだ。だって僕とキンゼイは対照的だし、彼の性格には好きじゃないところもある。でもリサーチを始めてから、彼は教師だったと気づいて、そこを中心に役作りした。彼はすごく才能のある教師で、知識を教え広めるのが好きだったんだよ」
役作りの上で具体的に役に立ったのは、講義を録音したテープだった。
「その中には亡くなる直前のものもあった。すごく病んでいたから弱々しい声で話し始めるんだけど、主題に入ると、声が明瞭になって熱をおびるんだ。そして3分後にはまるで25歳のエネルギーにあふれた男に変身している。だから、彼の声に耳を傾けることが、彼のキャラクターを掴むカギになった」
この作品を経験したことで、「人間は本当に様々なんだということに気づいた」と言うリーアム。
「僕自身が変化したことはないが、セックスについて、妻と話をするのが気楽になったし、息子たちに何を聞かれても、それなりに話せるようになった。まあ、うちの子はまだ8歳と9歳だから、突拍子もないことを質問したかと思うと、すぐに忘れて、『アニメを見てもいい?』なんて言ってるから、最高だよ」