「不謹慎ではなくノワール」インビジブル(2000) 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
不謹慎ではなくノワール
変態で邪悪、バイオレントで倫理観がない。
不謹慎極まりないバーホーベン監督。
彼は持てる技術とイマジネーションの全てをその不謹慎さに注ぎ込む。
何か他のものに注ぎ込めなかったのか?などという常人の疑問などお構いなしに、頑固一筋、不謹慎で何が悪いと貫き通すんである。
こんだけやれば話題になるだろう的な受けを狙った不謹慎ではなく、
「おまえら、こういう下品なの好きだろう」的な観客におもねった下品さでもなく、
ただバーホーベンがやりたかったからというシンプルな不謹慎さがイイ。
(バーホーベンなりに計算して観客のニーズに合わせてるのかもしれないが、いつのまにかそれを超えちゃっている。)
最近の映画は、バーホーベン以上に不謹慎なくせして、なんだか辻褄合わせだけが上手くて不謹慎さを感じさせない作りのものが多いと思う。そんな映画を観る度に、もっと正直に作れよ。カムバック・バーホーベンと心の中で叫んでおる。
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本作インビジブルには、
善人(ジョシュ・ブローリン)と悪人(透明人間ケビン・ベーコン)が出てくる。
普通映画は善人目線で話が進むのだが、この映画は気付くと悪人目線になっている。
観てる方も透明人間の気持ちになってしまう。
ケビン・ベーコンの壊れちまった悲しみが、分かりたくなくとも、浸水してくるんである。
壊れた世界を壊れた人間が彷徨うのがノワール(by滝本誠氏)だとすると、
バーホーベンのこの世界、立派なノワールなんである。
(バーホーベン自身はそんな洒落臭い呼び方はされたくないかもしれないが…。)
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その他、
ケビン・ベーコンは透明になってもケビン・ベーコンのままという、恐ろしいまでの技術力&演技力。
そして、いくつになってもいたいけなエリザベス・シュー、SなのかMなのか判然としない所もイイ。
などなど、見所満載の本作なのであった。