イノセンス : 映画評論・批評
2004年3月2日更新
2004年3月6日より日比谷映画ほか全国東宝洋画系にてロードショー
人形と言語で構築された迷宮が立ち現れる
「マトリックス」の元ネタにもなった「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」は、情報の海で発生した新種の生命体であると名乗る身体を持たない存在を登場させ、人間とは一種の情報ネットワークのことなのかという問いを投げかけた。その物語に続く本作は視点を逆に「身体」に向け、人形になりたい男と人形になりたくない少女を登場させ、人間はなぜ自分の姿に似たものを作らないではいられないのかを問う。
しかも、ドラマよりも雄弁にこの問いを発するのは、背景に配された図象群だ。監督によれば、本作では映画の3要素=キャラクター/世界観/物語を、パースペクティブの3区画=近景/中景/遠景に対応させたという。そのため映像に盛り込まれた情報量は凄まじく、まずは、洋館の形をした巨大オルゴールの中に住む人形のふりをした男、「処女」の花言葉を持つ百合を髪に飾った少女型愛玩用アンドロイド、ハンス・ベルメールの球体関節人形、江戸時代の茶運び人形、イタリアの人体模型ラ・スペコラ、リラダンの「未来のイヴ」、漢詩、レーモン・ルーセルの機械愛小説「ロクス・ソルス」、釈迦の言葉等々で構築された迷宮が立ち現れる。そしてこの迷宮の中心に、この問いは待っている。
(平沢薫)