劇場公開日 1951年6月15日

「民衆とマスメディアの暴走の怖さを描いたアメリカ民主主義の危うさとキャプラ監督の愛ある回答」群衆 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5民衆とマスメディアの暴走の怖さを描いたアメリカ民主主義の危うさとキャプラ監督の愛ある回答

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

第二次世界大戦中の1941年に制作され日本では10年後の1951年に初公開されたフランク・キャプラの隠れた傑作。戦後のリアリズム主流の映画界でその理想主義を説得力持って描くのが時代遅れになってしまった巨匠キャプラではあるが、名作「毒薬と老嬢」「素晴らしき哉、人生!」と共に後期の代表作に挙げていい内容と演出力を持っている。さらにキャプラファンだけのものではなく、主演のゲイリー・クーパーとバーバラ・スタインウィックの代表作としての魅力もあり、ロバート・リスキンの脚本含め見応えのある社会派映画となっている。
女性記者が捨て鉢で書いたフェイク記事の反響の大きさから始まり、新聞社の商業主義に巻き込まれた無職男が民衆とマスコミから祀り上げられて行くアメリカ民主主義の危うさ。その虚構に押しつぶされる主人公と彼を救う女性記者との愛ある結末。同じ浮浪者の友人役ウオルター・ブレナンの設定がいい。金の魔力に負けて嘘の道に丸め込まれる物語全体を客観視して批判する。人間界の異常な作り話に半ば諦めきった神様のようなキャラクターで、作品の甘さを引き締める塩味の役割をする。ここにも脚本家リスキンの上手さが光る。
「オペラ・ハット」「スミス都へ行く」そして「素晴らしき哉、人生!」に続く、窮地に立たされた主人公がその正義感と行動力で再び生きる喜びに包まれるラストシーンは、ハッピーエンド映画の模範であり、地に足の着いた理想主義の映画として普遍的価値を持つ。益々フランク・キャプラが好きになる。
  1997年 2月17日

アメリカの大統領選挙を見ると、その異常な興奮振りに日本人として驚きを隠せない。その一つのヒントになる作品です。イタリア・シチリア島出身のキャプラ監督は、マフィア映画に代表されるアメリカ映画のリアルな暗部に対して、民主主義に最も必要な人道主義を問い正義と博愛を感動的に描き、アメリカ映画に輝きを与えた素晴らしい監督でした。

Gustav