劇場公開日 2004年12月4日

Mr.インクレディブル : インタビュー

2004年12月1日更新

「トイ・ストーリー」から「ファインディング・ニモ」まで、百発百中でヒットを飛ばすピクサー・アニメーション・スタジオの最新作「Mr.インクレディブル」。全米では期待に違わぬ大ヒットを記録し、日本でもヒットが予感される本作のブラッド・バード監督を小西未来氏が取材した。(聞き手:小西未来

ブラッド・バード監督インタビュー
「アニメは、あらゆるジャンルを描くことができる芸術形態のひとつなんだ」

――ピークを過ぎて、栄光の日々を振り返るヒーローの物語、という設定からしてユニークですよね。

ブラッド・バード監督
ブラッド・バード監督

「このアイデアが思いついたのは、今から11年も昔のことなんだ。当時、映画企画をたくさん抱えていたんだけど、どれも実現させることができなくて、一生、映画監督になれないんじゃないかって心配していた時期でね。同時に、ちょうど子供が生まれて、よき夫で、よき父親にならなきゃいけないっていう責任感を感じていた。もし仕事に固執してしまうと、家庭を台無しにしてしまうんじゃないか、なんてことを心配している時期でもあって。家庭と仕事とのバランスとか、やりたい仕事をやらせてもらえないストレスなんかが、ストーリーに大きく反映されてるんだよ」

――「シュレック」や「シャーク・テイル」などのドリームワークス製アニメがポップカルチャーのジョークに頼る一方、ピクサーはその手のジョークを極力排除していますよね。アメリカ人だけでなく、世界のマーケットを意識しているということなのですか?

「ポップカルチャーのジョークを入れないのは、なにも世界中にアピールしたいからだけじゃない。普遍性のある傑作にしたいからなんだ。ピクサーの目標は、50年後も現在とまったく同じ鮮度で鑑賞できる映画を作ることだ。たとえば、『101匹わんちゃん』のようにね。あれは61年あたりに公開された作品だけど、同じ年に製作されたほかの映画と見比べてみたらいい。『101匹わんちゃん』だけは鮮度を失っていないから。タイムレスな映画こそ、ピクサーが目指していることなんだ。すぐに鮮度が落ちるポップカルチャーに頼るよりも、いつの時代にもある普遍的な感情をテーマにしたほうがいい。年を取ることや、職探しの苦労、自己嫌悪などをね」

――ほかに、ピクサー映画の特徴はありますか?

「ピクサーで作られる映画はすべて、監督のパーソナルな面がたっぷりと反映されている。もちろん、こういう映画にはたくさんのスタッフが必要となるわけだけど、その集団を指揮しているのはたった1人だ。例えば、ジョン・ラセターが『トイ・ストーリー』を作ったのは、誰かに『おもちゃを主人公にした映画を作れ!』と命令されたからじゃない。おもちゃ好きが高じて『おもちゃの映画が作りたい!』って自己主張したからだ。ジョンは大の車好きでもあるから、今は『Cars』(05年公開予定)の監督をやってるけど(笑)」

――わかりやすいですよね(笑)

「『ファインディング・ニモ』のアンドリュー・スタントンは魚好きだったし、『モンスターズ・インク』のピート・ドクターは、押し入れのオバケがどこに消えたのか気になって仕方がなかった。僕の『Mr.インクレディブル』にしても、滑稽なスーパーヒーロー映画ではあるけど、僕の個性がたっぷりと反映されている。オリジナルの企画を監督主導でやっていることこそが、ピクサーの成功の鍵なんじゃないかな」

――「Mr.インクレディブル」は、これまでアニメで描かれることのなかった人間的なテーマをたくさん扱っていますよね。

「うん。アニメは映画のなかの1ジャンルじゃない。あらゆるジャンルを描くことができる芸術形態のひとつなんだ。アメリカではアニメは子供のものだという偏見があって、自分はいつも狭い枠に入れられてしまっている気がしてるんだ。その点、日本人はアニメにもっとオープンだよね。僕は、アニメで描けない物語はないと思うし、例えば、離婚をテーマにしたアニメだって可能だと思う。ただ、唯一のルールは、実写映画のアプローチを模倣しちゃいけないってことだ。アニメ独自のやり方さえ見つければ、これまで作られたどんなストーリーだって、アニメで表現できると思うんだ」

インタビュー2 ~ジョン・ウォーカー プロデューサー インタビュー
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