ハッカビーズ : インタビュー
「スリー・キングス」で絶賛されたデビッド・O・ラッセルの新作は、ジュード・ロウ、ナオミ・ワッツ、ダスティン・ホフマンら豪華な出演者の共演が話題の「ハッカビーズ」。哲学用語が飛びかう映画ながらユーモア溢れる作品で、アメリカでロングランも記録した本作について、監督にインタビューした。
デビッド・O・ラッセル監督インタビュー
「この映画は『私は何者なんだ?』という問いかけなんだ」
聞き手:わたなべりんたろう
――今回の作品では実存主義探偵が現れたりとユニークですが、監督は実存主義者なのですか? また、今作の発想のきっかけは何だったのでしょうか?
「その通り。私は実存主義者で、この映画は『私は何者なんだ?』という問いかけなんだ。子供のときから形而上学的なことに興味があった。日本の文化でいえば禅の思想かな。この映画を作るきっかけは、ある夢を観たことなんだ。とてもセクシーな女性がどこまでも私を追いかけてくる夢で、逃げるのに疲れた私が『何故きみは追いかけてくるんだ?』と聞いたら、『あなたが何者かを探るためよ』と言われたんだ。これは面白いと思ったんだ」
――実存主義探偵の意味は?
「探偵というか、今作の探るキャラクターには陰と陽があるんだ。陰はイザベル・ユペールが演じるキャラクターで陽はダスティン・ホフマンとリリー・トムリンが演じるキャラクターだね。この陰と陽がジェイソン(・シュワルツマン)演じる主人公の、いろいろな側面を明かしていくんだ。ジェイソン演じるキャラクターも実存主義者で、人は存在し続ければ先に行けると楽観的に思っているが、『決してそうではない』と人を悩ませるのがイザベル・ユペール演じるキャラクターだ。このキャラクターは『スター・ウォーズ』のダース・べイダーのようなものなんだ。人間のダークサイドを象徴しながらも乗り越えなければいけない存在だね」
――ジュード・ロウとナオミ・ワッツがコメディの演技をするのは初めてでは?
「この映画にコメディアンを使わないのは始めから決めていた。ただおかしいだけの映画ではないからね。例えば、ジュード・ロウは輝くような才能を持っているから、コメディをさせたら面白いと思ったし、ジュードの役はジェイソンの役に憧れられる役だから、華のあるジュードにはぴったりだと思った。ナオミ・ワッツは『マルホランド・ドライブ』のナイーブな演技に注目していた。そして、コメディに関してはドラマ性を追求すればするほど、コメディの要素が生まれてくると思っていたから、この映画を作ることでそのことを証明しようと思ったんだ。他のキャストに関していえば、ジェイソン・シュワルツマンとマーク・ウォールバーグは個人的に良い友達でもある。ダスティン・ホフマンは前作の『スリー・キングス』に出るはずだったが、いろいろな事情で実現せず、今回、ダスティンのために書いた役で出てもらったんだ」
――この映画のダスティン・ホフマンの役はロバート・サーマン(ユマ・サーマンの父親で、仏教学の大学教授)がモデルだったそうですが、彼はこの作品を気に入ってくれたのでしょうか?
「とても気に入ってくれたよ。彼は偉大な教師でありながら、ユーモアのセンスもとてもある。彼のために書いたシナリオも用意してある。ロバートは私のメンター(師匠)なんだ。ロバートはサンスクリット、中国文化、仏教の3つの大家として知られていて、とても影響を受けているよ」
――この映画で一番好きなキャラクターは誰ですか?
「一番好きなキャラクターはマーク・ウォールバーグが演じるキャラクターだ。消防士でありながら、その行動にいつも疑問を持っている。9・11以降、消防士というとヒロイズムの象徴のように思われがちだが、消防士を葛藤を持った一人の人間として描きたかったんだ」