「アレレ」ヒストリー・オブ・バイオレンス 病気の犬さんの映画レビュー(感想・評価)
アレレ
クローネンバーグは映画を趣味に見始めた当初、これが名匠の作品か~。さっぱり、わからんな~。って観てました。純粋だったあの頃に戻りたい。
さてほぼ意味がわからん映画を撮る監督と認識が出来た今、急に意味が分かるようになってくるのも映画の不思議。この映画の意味は殴られたやつは覚えている。です。
暴力での紛争解決は中途半端では止まらないこと、過去は清算しにくいこと。これらはそれこそ自分が作ってきた映画こそそうなんじゃねえの。と言いたいところですが、それはさておいてこの作品、なかなか見ごたえのある映画になっています。なによりアクションシーンがなんかこう魅惑的で甘美なように演出されており、暴力の持つ魅力を十分に引き出しながらかつ暴力を否定的に扱うという離れ業、もしかしてクローネンバーグ本当に名匠だったのかもしれません。
絵に描いたような幸せな家族の光景に引き込みつつ、それらを一瞬で消し去る暴力の存在を匂わせる。シュワ様であれば家族の為に大奮闘して大団円を見せるわけですが、この場合はその解決方法になんとも言いがたい後味の悪さと不思議な爽快感。ついでに終わりなど来ないのでは無いかというそわそわした空気を漂わせつつ。時間が来ましたとばかりにタイムカードを押すかのような終わり。
因みに主人公は二重人格ではありません。それは息子が同級生を殴るシーンで説明されています。もとよりそっちよりの人間です。私の人間観ではなくて映画のコードの問題です。
思うにこの唐突なエンドは終了を表すのではなく、連鎖・継続を漂わせているのだと思います。つまりどこで切っても同じであるということ。主人公がこの先どうなるのかではなくて、人の歴史はどこを切り取っても~というやつでしょう。
けして万人に向く映画ではありませんが、クローネンバーグにしては比較的万人向けの良作です。