劇場公開日 2006年11月18日

「ヒューマンドラマの要素も見逃せない」プラダを着た悪魔 talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ヒューマンドラマの要素も見逃せない

2024年7月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
いつもは、もっと違うタイプの子を雇うの。
オシャレで、細身の子。
うちの雑誌の崇拝者たち。
でも、失望させられることがあるわ。
だから、あなたの素晴らしい履歴書と、立派なスピーチを聴いて「この子は違う」と思ったのよ。
自分に言ったのよ。「リスクを承知で雇うんだ。利口な太った子を。」と。
期待したのよ。
望みを託したのに、失望させられたわ。
他のどんなバガな子たちよりも。
以上よ。

鬼編集長の「鬼」ぶりは、流行の変化か激しいファッション業界をリードする立場にあって、片時も気を抜くことができない…その重圧から来ていたのではないでしょうか。
夫との離婚問題を心中に抱えながらも(しかも、二度目の離婚?)。
反面、その一見するとパワハラぶりは、アンディに対する期待でもあったのだろうと思います。

無茶であることは内心では百も承知、二百も合点の上ではあっても、自分の要求に応えてもらえなかったことに満足はしていないミランダのセリフとして出てくる上記の映画のことばは、たぶん、おそらく…というか、ほぼ確実に、アンディに奮起を促す「励まし」のことばだったのだと、評論子は受け取りました。

言い回しとしては辛辣でも、ミランダの本心としては。正(まさ)しく、あたかも、ライオンがわが子を千尋(せんじん)の谷底に突き落としその練獄から這い上がって来ることを期待すると言われるように。
(そのことは、アンディが、彼女の希望だったマスコミ業界=新聞社への転職について、ミランダが元ボスとして、好評価の推薦状を書いていたということからも明らかだったと思います。)

そういう点からいえば、本作も(ファッション業界の)「人と人との関係を描いた一本」ということでは、それなりのヒューマンドラマとして位置づけても、まるきりの的外れということではなかったかと思います。

そういう要素も加味すると、なかなかの佳作ではあったと思います。
評論子は。

(追記)
ミランダのきれいな銀髪と、艶(つや)やかなアンディの黒髪-。
それは二人の女性の年代の差を、はっきりと象徴していたのではないでしょうか。
専門雑誌の編集を通じ、いかにファッション業界を切り開き、牽引してきたとはいえ、ミランダはすでに「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」ということが、そうは遠くない世代。
引き換えて、もちろんアンディは、これからの世代。
その二人の女性の決定的な違いを象徴していたのが、二人の髪の毛の色ではなかったでしょうか。
そう思いました。評論子は。

(追記)
それにしても…。
ブランドものの洋服って、やっぱり洗練された艶(あで)やかさとでも形容すべきなのか、独特の「見栄え」は、するものなのですね。
いつも「着たきり雀」のファッションで過ごしている評論子には、とんと無縁の世界ですけれども。
一流ファッションのブランドを題名に冠した作品だけあって、ブランドもののファッションが、惜しげもなく登場するようです(前記のとおり、その方面にはまったく疎(うと)い評論子には、すでに、その程度の認識。)

女性は、身につける服装でもテンションが上がったりするのでしょうか。

華のないことを言ってしまえば、もちろんメーカーからの貸与品なのでしようけれども。製作側にも「予算」という限りがあることでしょうから。

しかし、ブランドものの洋服が惜しげもなく登場するという点ては、ブランド好きの向きには、垂涎(すいぜん)の一本だったこととも思います。

(追記)
にしても…。
さすがは女優さんですねぇ。
ブランドものの洋服を颯爽と着こなしている様子は。
アン・ハサウェイにしても、メリル・ストリープにしても。
「目の保養」というのは、こういうことを指して言うのかも知れません。

(追記)
迫力がありましたねぇ、メリル・ストリープの「鬼編集長」。
いやはや、すでに堂に入っている彼女の演技には、いまさらですけれども。
その存在感には、終始、圧倒されます。

そして、アンディ自身の希望もあり、必ずしも「同じくファッション業界で」ということではなかったのですけれども、「自分の決断」でわが道を選びとっていったアンディの成長を喜んだのは、他でもない、ミランダその人であったことは、疑う余地もありません。

何を隠そう、別作品『クレイマー、クレイマー』のジョアンナで見かけてから、すっかり恋をしてしまい、自他ともに許すメリル・ストリープの「追いかけ」である評論子としても、老獪(ろうかい)な年配編集長という役回りの彼女には、また彼女の新たな一面を感じたようにも思います。
もっともっと、見てみたいものです。他の彼女の出演作品も。

(追記)
ともすると、日本でいう就職は、文字通りに「職に就く」ということではなく、希望する会社に入社すること(就社)であるとも言われますけれども。
しかし、本作では、ジョブ型雇用と転職によるステップアップというアメリカでの就労形態が明確に描かれ、彼我の雇用形態を比較するにも、良い作品で、その意味では「cinema de 労働契約法」ということでは、優れた一本でもあったと思います。

<映画のことば>
君が働く雑誌は、世界中の偉人を掲載した。
彼らが創造したものは、美術品よりも偉大だ。日々、身に纏(まと)うから。
これは、ただの雑誌ではない。
輝かしい希望の光だ。
多くの伝説的な人物が歩いた建物にも、君は無関心。ここで働けるなら、多くの者は、命も捧げる。
甘ったれるな。

talkie