「信頼と欺瞞に揺れる人物の描き方が見事。」ディパーテッド すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
信頼と欺瞞に揺れる人物の描き方が見事。
〇作品全体
登場人物の多くが終始信頼と欺瞞の渦の中で苦悩する。欺瞞のカードを手元に置きながら信頼を求める姿の緊張感と、ほのかに漂うバッドエンドの匂いが燻る空気が作品を覆っていて、独特な作品だった。
信頼を求める各登場人物の姿が本当に印象的だ。コリンとビリーのフランクへの信頼を求める心は同じであっただろうが、同じアイルランド系という同胞としての信頼の要求と、職務と崖っぷちの必死さからくる信頼の要求、という相反する感情が根底にあるのが面白い。しかし手元にはしっかりと欺瞞の感情を隠している。だからこそ関係性は簡単に瓦解するし、機能不全を起こす。
結末のあっけなさには驚かされたが、作中でも度々口にする「ネズミ」という欺瞞が軒下で柱をかじり続けた結果、大きな代償を払うことになった…と考えれば当然の結末ともいえる。
スコセッシ監督の作品は、なにかが欠けた人物の描写が上手い。『タクシードライバー』では社会との関係性の欠如を、『グッドフェローズ』や『ウルフオブウォールストリート』では自制心の欠如があって登場人物を魅力的に描いていた。
本作も俯瞰してしまえば滑稽にも見える相反する感情の渦がある。でも、それだからこそ、登場人物は魅力的になるのだ。
〇カメラワーク
・アイリスイン、アイリスアウトの使い方がそこ!?って感じで驚いた。初めて州警察本部へやってくるコリンのカットでアイリスイン、警察内のネズミを探すために事務室で孤立するコリンのカットでアイリスアウト。アイルランド系のコミュニティで過ごしてきたコリンの世界を一気に開かせるアイリスイン、一方で孤独感とコリンの世界の狭さを強調させるアイリスアウト。正直ギャグっぽい。
・スコセッシ映画で好きな要素として、トリッキーなアクションカットでシーンを繋げるところがある。神父とシスターが登場した後、キリストの肖像画を映してそれを寝ている人物に叩きつけるところか。オペラで白い羽を散らすカットとヤクを贅沢にばらまくフランクをオーバーラップで繋げてたり。クスっと笑ってしまうアイデアなんだけど、カット割りのテンポ感が心地いい。
・ラストカット、窓の向こうに議会議事堂とネズミ。ネズミは正直語りすぎでは…と思わなくない。アニメだと結構見る演出だけど、アニメで馴染むのは実写とアニメの、噓の許容範囲の差だろうな、と思ったりした。窓から見えるところまで近づいた議会議事堂だが、ネズミ(嘘つき)にとっては遠すぎる…というようなニュアンスもあるか。
〇その他
・最近『ボーンシリーズ』と『ローンサバイバー』を見たからマット・デイモンとマーク・ウォールバーグが出てきてびっくり。マーク・ウォールバーグのアンチヒーローっぽい芝居がとても良かった。軽い性格なようで嫌味ったらしく賢しく暴れ馬…なんとなく『アウトレイジ』の椎名桔平を思いだした。
・コリンが欺瞞を腹に抱えた代償として夜の機能不全を起こしてるのが面白いアイデアだなあと思った。後ろめたさがあるから起たないっていう。州警察に最初来た時、ディグナムから股間も立てろみたいなしょーもない下ネタ言われたけど、ここに掛かってた。その前にクイーナンから手柄を立てろみたいなことを言われているから、手柄は立てるけど裏がある分、股間はキチンと立たない…みたいなニュアンスを勝手に感じた。
・率直に書くと、マドリンずるくない???って思った。欺瞞の渦中にいた人物たちは全員その償いをうける格好で死んでる。でもマドリンだってコリンを裏切ってビリーと過ち犯してるし、欺瞞の渦中にいたよな、と。いや、まあ人の生死とは関係ない(子供は本当にコリンの子か?という疑問はあるが)ところにあるし、きちんと関係性を断ってはいるけれど、コリンの言い分を一方的に遮断して、間接的にコリンへ引き金を引く立場か?と思ったりしてしまった。
コリンの欺瞞が暴かれた場面で「私のほうが汚れていると思った」って言うのもずるいよなあ。相手の汚さに、自分の汚さを隠してる。
簡単に言えば一人潔白面してるのが腑に落ちない。
感想書いてみて思ったけど、この作品、自分が一番書きたいのはマドリンのことだった。マドリンに引っ掛かりを覚えた、そんな2021年の自分に苦笑。今しか書けない感想かもな…。