「巨匠たちの「第九」を超えて。子どもたちが体現した、真の『自由』」ホワイトハンドコーラスNIPPON Brüderよろこびのウィーン Dvorakさんの映画レビュー(感想・評価)
巨匠たちの「第九」を超えて。子どもたちが体現した、真の『自由』
これまでカラヤン、バーンスタイン、小澤征爾、そして佐渡裕といった名だたる巨匠たちが指揮する、完璧に磨き上げられた「第九」を何度も聴いてきました。しかし、これほどまでに魂を揺さぶられ、涙が込み上げる合唱は初めてでした。
この映画が描くのは、単なる「障がいのある子どもたちの奮闘記」ではありません。視覚や聴覚、それぞれに異なる「障がい」という個性を抱える子どもたちが、ベートーヴェンの第九という大きな目標に向かって、魂を共鳴させていくプロセスそのものです。
ベートーヴェンがこの曲に込めた、人類愛、普遍的な歓喜、そして自由。 「すべての人は兄弟になる」という彼の切なる理想が、障がいという垣根を超えて繋がろうとする子どもたちの姿と重なって見えました。
耳が聞こえない子は「手歌」で音楽の躍動を可視化し、目が見えない子は誰よりも深く心の声を響かせる。その「違い」を無理に矯正するのではなく、互いの個性を認め合い、一つの大きな「歓喜」へと昇華させていく。その光景は、ベートーヴェンが夢見た「自由な魂の連帯」の具現化そのものでした。
これまでの人生で、オーケストラの伝統や形式が生み出す名演をいくつも体験してきましたが、この映画で子どもたちが歌い上げた「第九」は、私にとって間違いなく一番泣いた合唱です。音楽とは、技術ではなく、命の共鳴なのだと教えられた気がします。
映画館を出ると、クリスマスのイルミネーションが雨に輝く夜でした。「年末といえば第九」と、これまで何度も向き合ってきたこの季節ですが、今年の年末、私の耳の奥で鳴り続けるのは、あの沈黙の中に力強く舞った「手歌」の第九に違いありません。
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