「僕たちにマジな話なんてないんだよ。すべてシャレなんだよ。すべてを笑い飛ばすのが、粋。」落語家の業 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
僕たちにマジな話なんてないんだよ。すべてシャレなんだよ。すべてを笑い飛ばすのが、粋。
公開初日。弟子に訴えられた裁判に、チンドン屋を引き連れて「被告福田でございます」と"お練り"よろしく登場して幕が開く、破天荒落語家快楽亭ブラック半生記。そもそもブラック師匠は、自らを「あいのこ」と自嘲(ハーフは優性遺伝、あいのこは劣勢遺伝とも)し、放送禁止用語をバンバン発しても、被差別者が差別を語る図式に、抗議する側はその矛先を鈍らせてしまう。コンプラ真っ盛りの世の中に稀有な、昭和を思いっきり引きずった存在でもある。何人ものクズ芸人を取り上げた某TVドキュメンタリ番組でさえ企画段階で却下(あまりのゲスっぷりにスポンサーを説得する自信がないのだろう)されるほどの人物である。芸人の了見を地で行くドキュメンタリ映画が面白くないはずはない。(隣人や身内にはいて欲しくはないが)
ヤマ場はいくつかある。一時期拠点としていた大須演芸場が、家賃滞納、税金未納で行政側から強制執行を受けることになった際、これもネタにし執行官たちを笑いの対象にしてしまう茶化しっぷりは見事。大勢の観客に「待ってました」と拍手で迎えられスマホで激写される仏頂面の執行官の可笑しいことったらない。「強制執行を見世物にしてしまう席亭の強欲」とブラック師匠は言うが、あんたもな!とツッコみたくなる気分だった。
弟子から訴えられ、原告側(弟子とその彼女)から請求された謝罪配信も不真面目だと責められる始末。(まあそもそもブラック師匠に弟子入りしておいて人権もクソもないんだが)
さらに請求された慰謝料も、31万5千円まるまる競馬にツッコむイカレぶり。しかも単勝で勝つ強運。←ここで客席が湧き拍手が起こった。ちなみに、2.1倍だったらしいので、結果ほぼ手元に残らないというきれいなオチがつく。
終演後、トーク。ご本人と、サンキュータツオさん。明日はこの下のユーロライブで渋谷らくごの出番というブラック師匠、先日倒れたと聞いていたがいたって元気に毒を巻き散らかしていました。あのまま昇天していればそれが番外編として最終章を飾って、いい人生の締めくくりになっただろうに。(こう書いても、あの人の場合、全然誹謗中傷には当たらないのがいい)
なおこの映画で、寄席界隈の芸人で言えば、鈴々舎馬るこ師匠、坂本頼光先生、居嶋一平先生、夫婦漫才ジキジキのお二方などがいいお仕事をしていますのでご注目。
