ネタニヤフ調書 汚職と戦争のレビュー・感想・評価
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人生や命を懸けて作られた映画の一本
ドキュメンタリーはうまく構成しないと面白くなくなったりするのだが、この作品はとてもスリリング。ときにコミカルな描写もはさまれており(ネタニヤフの妻の癇癪ぶりと元従業員たちの辛辣な評価の対比!)小さな収賄が大きな汚職に、そして10月のテロとパレスチナの泥沼にどうしてつながっていったのかが、よく分かる。
おそらくこの映画の最大の功労者は、取り調べ映像を流出された匿名のA氏だろうが、彼の名前は永久にスタッフロールに表れないだろう。それでいい。そういう人がいたから、この映画ができて、遠く日本の地で今のイスラエルの様子を知ることができる。
ひとりの有能な政治家が、どうして権力にからめとられていくのががとてもよく分かるストーリーになっており、これはどの世界でも起きることなのだと思わされた。もちろん日本でも。極右政党のスモトリッチの目はどこを見ているのか分からない、目の前の人間を見ていない不気味さがあった。しかし、私は日本の政治家の中にもああいう目をしている人間を見たことがあるような気がしてならない。
たくさんの人が勇気をもって顔を出し、人生や命を懸けて証言してくれた珠玉の一本だ。こういう映画をまだ作れる状態にあるイスラエルの民主主義には少し希望を感じる。そして、米国でも上映のめどが立たない本作を見れる日本の環境の自由さ、この映画を上映してくれた地元の映画館に感謝をしたい。今混沌としている日本で、この映画もできるだけ広く、多くの人に見られてほしいと思う。
タイトルなし(ネタバレ)
ガザ・イスラエルの紛争のキーマン、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ。
愛称は「ベベ」。
彼の経歴を、ライズ&フォールの文脈で描いたドキュメンタリー映画。
権力は人間を腐らせる見本のようだ。
兄を「エンテベ事件」で喪い、首相になるまでは英雄譚のよう。
だが、首相の座を得て、権力の甘い蜜を知ると次第に堕落していく。
当初は、贈収賄。
ハリウッドの大物プロデューサーが仲介役になっている。
その収賄事件で検察が動き、裁判にならんとすると、自己の保身のために極右と組み、最終的には国を破壊してしまう・・・
身近でも見た光景だった。
遠い国の出来事ではない、と痛感した次第。
どうするイスラエル
『女性の休日』からの同日ハシゴ@渋谷シアター・イメージフォーラム。
こちらもドキュメンタリーで、さすがに1日に2本のドキュメンタリーはお腹いっぱいかと思われたが、『女性の休日』とはまったく別の意味で感嘆してしまった。
唖然としたのだが、イスラエルのネタニヤフ首相は汚職容疑で起訴されていて、現在、裁判が進行中である。イスラエル建国以来、刑事告発され裁判の被告となった初の首相だ。
まず、これが「事実」。
そして、かつてエンテベ空港でのハイジャック事件で人質となったユダヤ人乗客を救出する強襲作戦(「サンダーボルト作戦」)の指揮官であり、作戦の唯一の死者だったのはネタニヤフの敬愛する実兄だった。
これは私にとっては既知の事実。
そして、なんと汚職容疑に関わる警察の取り調べのビデオ映像が「流出」している。
この映画は、その取り調べ映像の多くがそのまま使われ、構成されている。
写っているのは、ネタニヤフ本人とともにその夫人サラ、ネタニヤフ以上に極右思想の息子、サラ夫人の元付き人、元秘書官、元報道官、前任の首相、贈賄したと思われる富豪・・・など、主だった関係者。
首相夫妻の周囲の人びとは、にわかには信じがたい「夫妻のやりたい放題」を赤裸々に証言する。
特にサラ夫人の、実業家である富豪へのジュエリーとシャンパンのおねだりは呆れた口が塞がらない。
もちろん首相夫妻は白を切り、あるいは大声で恫喝する。
「友人が友人に、大して高価ではない(?)贈り物をすることを犯罪だとでも言うのか」「ビジネスに便宜を図った、などという証言はすべて虚偽だ」「やつらは嘘をついている」「国と民族の安全を確保し敵と戦っている私(たち)を何だと思っているのか」「お前ら(警察)はゲシュタポだ」と。
これを果たして流出と言えるのか。驚くべき規模での、意図的なリークではないか。
そして、この首相夫妻や息子をめぐる周囲の重要人物たちが証言する姿が「嘘」であるとは到底思えない。
今どき、生成AIによってディープフェイクな動画も作れる世の中であるが、さすがにこの映像は生身の人間たちが語っているとしか思えない。
とすると、この「流出した映像」を中心に組み立てられた映画は、事実を告発するドキュメンタリーなのか、はたまた巧妙に制作されたプロパガンダなのか。
ネタニヤフを追っているジャーナリストによると、やがてネタニヤフは投獄への恐怖を払拭し、自らの存立基盤を揺るきないものにするために極右勢力と連立を組んだ。
「ユダヤの力」党首のイタマル・ベン=グヴィルと宗教シオニスト党党首ベザレル・スモトリッチである。
ネタニヤフはグヴィルを国家安全保障大臣に任命し、警察組織の管理強化や入植地の急進的な拡大を推進。アラブ系住民に対する強硬姿勢と物議を醸す挑発的な言動や活動が知られている。
そしてスモトリッチを財務大臣兼国防省付担当大臣としたが、彼もまた国防省内でヨルダン川西岸地区の支配を強化する事実上の併合に近い措置を推進している。彼は 国会での映像で「パレスチナ人なるものは地上に存在しない」と笑いながら言い放ち、議員たちから大ブーイングを受けていた。
また、ネタニヤフ首相が推進する司法制度改革の主要な推進者の一人として、最高裁人事を「改革」しようとしている。つまりは、進行中の「首相の犯罪」をストップさせようとする企みだ。
なるほど。道理でトランプと相性が良いわけだ。
そしてこの閣僚人事と政権の極端な右傾化は、イスラエル国内の政治的混乱と不安定化を引き起こし、それに呼応し乗じる形で、あのハマスの襲撃を呼び込んでしまった。
どうするイスラエル。
おたくは少なくとも民主主義を標榜する国家国民だろう。
民族3000年の知恵と知性を総動員して、お願いだから正しく覚醒して欲しい。
ネタニヤフ首相自身が戦争を望んでいると知ってショック
紛争の激化の背景が分かってショックを受けた。旧統一協会が国際的なテロのネットワークに加わっていてそこには自民党の首相なども含まれていることを記した絶版本を思い出した。この映画がイスラエルでは上映禁止でアメリカでも劇場公開が難しいのに日本では上映できることから、日本は平和と思える人は少なくないかもしれないけれど、身近な問題と思える。前日に「ボンヘッファー」の映画を観ていてヒトラー政権と同じとも思えてネタニヤフ首相は暗殺するしかないのかもとも思ったけれど、ヒトラーの暗殺は失敗したし、「私は憎まない」や「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」というドキュメンタリー映画に描かれているように、心の平和と希望を見失わずにいることが何よりも大切なのだろう、と改めて思う。
現在進行形で起こっていること。すごいドキュメンタリー。
あまりのことに終演後しばらく動けなくなった。
「ノー・アザー・ランド」は大きな声も上げれず蹂躙され続けるパレスチナ側民衆の現状でしたが、この映画はイスラエル政府の内情。
そして論客がすごい。元イスラエル首相、イスラエルの国内諜報機関シンベトの元長官、ネタニヤフの元広報担当、著名な国内の調査報道ジャーナリスト等ががっつり語る。さらに作り手の力量が高く「ドキュメンタリーこうあれり!」な見応えがズシンとくる。
・自身の権力を維持するために戦争し続ける
・混乱を招くためにハマス(アラブの過激派、もちろんイスラエルの敵)に莫大な資金提供
・政権を維持するため極右と組む
・極右の連中は見てるとトラウマになりそうなほどのクソ野郎達です…
そんな政権が現政権なのか、と。
当然本国イスラエルでは上映禁止、親イスラエルの米国でも上映禁止です。
映画制作陣と論客達の命が心配だよ、あたしゃ。
政権の横暴(自身の権力維持のための国内安定阻止)を推進するために、極右である宗教シオニスト党党首やユダヤの力党党首を大臣に据えてるんだよ。極右が政権主導するのは本当に本当にだめだ。それはどこの国でも同じ。歯止めが効かなくなる。
為政者の関心ごとは自身の権力保持のみで国民は駒にしか過ぎない。軽んじられる命。こんなのダメに決まってるのに、現在進行形の現実で、米国はイスラエルを支持している。
この映画が上映できる日本は幸せだよ。
その幸せが維持される事を願ってやまないよ。
そしてどうかどうか、為政者の都合で蹂躙され続けるパレスチナや善良なイスラエルの人達の命が脅かされる事のない状況が訪れる事を切に願うよ。この調書の裁判で正常に判決が下る事を切に願うよ。
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