「静かに、しかし確実に効いてくる。“今のジャッキー・チェン”の最適解。」シャドウズ・エッジ こひくきさんの映画レビュー(感想・評価)
静かに、しかし確実に効いてくる。“今のジャッキー・チェン”の最適解。
本作は、観終わった瞬間に拳を突き上げたくなるタイプの作品ではない。だが席を立ち、帰り道を歩きながら、そして翌日になってから「やっぱり良かったな」と思い返してしまう、そういう種類の映画だ。これは実はかなり希少で、昨今のアクション映画においてはなおさらである。
まず何より言っておきたいのは、「この数年で一番ジャッキー・チェンが、しっかり動いている」という点だ。ただし誤解してはいけない。若い頃のような無茶なスタントや派手な宙返りをしているわけではない。そうではなく、走り、止まり、間合いを測り、周囲を読む。その一挙手一投足が“身体の演技”として成立している。引きの画で逃げないカメラワークが、それを裏付けている。誤魔化しの効かない構図で成立しているという事実だけで、これはもう相当な信頼に値する。
本作が賢いのは、「レジェンドが無双する映画」にしなかった点だ。物語の軸は、老兵が若者を鍛え、チームとして強敵を追い込んでいく過程にある。しかし、ここで描かれる“教育”は熱血でも説教でもない。教えるのは技ではなく判断、正解ではなく考え方だ。全員を同じ方向に揃えるのではなく、ズレたまま機能させる。このチーム像が実に現代的で、現場を知る人間ほど膝を打つはずだ。
ヒロインのチャン・ツィフォンも非常に良い。守られる存在でも万能な存在でもなく、現実の延長線にいる実務的な人物として物語を支える。感情を過剰に説明せず、表情と間で語る演技が、抑制されたジャッキーの芝居とよく噛み合っている。彼女がいることで、この映画は漫画的な誇張から一歩踏みとどまり、現実味を保っている。
上映時間は141分とやや長めだが、緊張感は最後まで途切れない。派手な山場を連発するのではなく、小さな判断ミスや違和感の積み重ねで観客を引っ張る構造になっているため、気が抜ける瞬間がない。終盤に訪れるのは爆発的カタルシスではなく、張りつめていた緊張が静かに解ける感覚だ。これもまた、大人の映画である。
総じて『シャドウズ・エッジ』は、「今のジャッキー・チェンだからこそ撮れた映画」だと言っていい。ノスタルジーに寄りかからず、若さを偽らず、それでもなお第一線に立ち続ける。その姿勢自体が、この映画最大の説得力であり、最大の見どころだ。派手な宣伝よりも、口コミでじわじわ広がってほしい。そう願いたくなる、誠実で、静かに強い一本である。
相変わらずの鋭いご指摘に共感の嵐です。
仰る通りで「レジェンドを無双にする映画」にしなかった所が勝因ですよね。
チーム、メンバーの描き方も秀逸でした。
脚本素晴らしかったです。
ジャッキー映画ファンですが、本作は直近の中でも1番好きです。
ジャッキー・チェンでなく、アンディ・ラウやトニー・レオンでも成立する内容ですが、ジャッキー・チェンだからこそ面白かったです。3人で食事するシーンは緊張感でヒリヒリするなか、そこで泣かせにくるかって思うほどやられました。アクションシーンでも泣かされました。本当に良くできた作品ですね。
はじめまして。レビュー、めちゃくちゃ共感しました。何もかもが「今のジャッキー」の良さを引き立てる構造になっていて、それでいて彼のナルシスト作品になっていない。第二の黄金期を迎えてもおかしくないくらいの完成度だったと思います。
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