「バランスの難しい素材をクレバーかつ明快に織り成している」殺し屋のプロット 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
バランスの難しい素材をクレバーかつ明快に織り成している
マイケル・キートンが長編監督を手がけるのはこれで2回目。その作品選びの基準は非常に独特で、派手さはないが堅実な面白さや人間関係の妙を秘めた素材を、彼は最初から術を心得ているかのように迷いなく、無駄なく真摯に調理してみせる。「記憶を失うプロの殺し屋」というありふれた人物像も、熟練のキートンの手にかかれば途中までは安心感が漂い、途中からは何が正常なのか靄に包まれゆく適度なミステリーがグラデーションを成す。このバランス感覚にハマるかハマらないかが楽しめる/楽しめないの境界線となりそう。加えて、シニカルさとユーモアとのバランスも心地良く、特にアル・パチーノが登場してからは単なるちょい役とは一味違う飄々とした立ち回りが笑いを誘う。そして追う側の女性刑事も、彼女は彼女で家族の事情を抱えているのが面白い。敵味方ではなく、パズルのごとく人と人とが入り組んで陰影を彩る、なんとも蔵人好みなノワール世界である。
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