「上質のミステリ小説に似た味わいと、温かな余韻」殺し屋のプロット 高森郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
上質のミステリ小説に似た味わいと、温かな余韻
グレゴリー・ポイリアーによる脚本がまず巧い。読んで惚れ込んだマイケル・キートンが主演・製作に加え、自身2度目となる監督まで買って出た(初監督は2008年製作の「クリミナル・サイト 運命の暗殺者」)。記憶障害を扱ったサスペンス映画としては、クリストファー・ノーラン監督の「メメント」とアンソニー・ホプキンス主演の「ファーザー」という2大傑作があり、これらには及ばないものの、「殺し屋のプロット」もよく練られたストーリーが知的好奇心を刺激する。ベテランの殺し屋が認知症を患うという設定が似ている「MEMORY メモリー」、認知症の老人がナチス逃亡犯への復讐の旅に出る「手紙は憶えている」も思い出される。高齢化と認知症患者の増加は世界的な傾向であり、ドラマ作品はもちろんのこと、サスペンス系でもこの題材を扱う映画が増えそうだ。
アクションシーンを雑多に散りばめたB級サスペンスとは趣を異にする。凄腕ヒットマンのノックスにしてはあり得ない序盤のミスと、後半に自らが襲撃されて対処するシークエンス、アクションの見せ場はその2つのみ。ミステリ要素が盛り上がっていくのは、長年絶縁状態だった息子マイルズが衝動的に犯した殺人の現場の後始末を、ノックスが引き受けてからだ。しかし彼が熟考の末に開始した工作は、それ一体どういうこと?と観客に疑問を抱かせることの連続。やっぱり病気のせいで頭がぼけているのか、それとも息子のことが憎くてやっているのか?
そうした疑問を生んだ伏線はわかりやすく回収され、満足感とともに温かな感情を呼び覚ますエンディングに至る。地味ではあるが、滋味豊か。アル・パチーノの元気な姿を見られたのも嬉しい。
