劇場公開日 2025年12月5日

「殺し屋の見事な終活」殺し屋のプロット kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 殺し屋の見事な終活

2025年12月10日
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鑑賞方法:映画館

認知症を描いた映画はいくつか観てきた。いずれもぼやけていく自分の意識と記憶が描かれていて、脳のまだらな感じが言いようもなく不安にさせるものだった。本作もその基本路線はブレていない。ただ、決定的に違うのは主人公が殺し屋であることだ。
派手なアクションや、迫力ある殺しのシーンがあるわけではない。殺し屋が出てくる映画として期待するものはほとんどない。メインは、クロイツフェルト・ヤコブ病を患った殺し屋が企てた何かを淡々と実行する姿を描いた映画だった。殺し屋の映画としてはとても地味ではあるが、なかなか考えさせられるし面白い。アルツハイマー型認知症よりも進行が速いヤコブ病のため、大急ぎで終活を行う姿が印象的だ。
殺し屋稼業なので一般の老人とは少し違う終活となっている。引退するための面倒がありそうだし、しばらく会えていなかった息子に無理なお願いごとされたりしてるし。一見何をしているのかわからないところが肝。最後にちゃんと伏線が回収されていくのはスッキリする流れだった。一般の終活とは違っても、そこに流れているのはお世話になった人たちへの感謝と愛情だった。こんな感じで自分の人生にケリをつけられたら最高だ。
非道な殺し屋というイメージとは少し違うジョン(顔は怖いけど)。ターゲットがどんなやつなのかという情報を聞かないようにするとか、ターゲット以外の人を殺してしまった人数をカウントしていたりとか、毎週呼んでいたコールガールにも優しかったりする。そんな人柄がにじみ出た終活だった。でも、仕事はある意味完璧だったことも彼のすごさを物語っている。地味で目立たない映画だが面白かった。地味にでも多くの人の目に触れてほしい。

kenshuchu