劇場公開日 2025年12月19日

「「無明の橋」の先に悲しみからの癒しを見た」無明の橋 minavoさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 「無明の橋」の先に悲しみからの癒しを見た

2025年12月20日
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鑑賞方法:映画館

「果てしなきスカーレット」は、地獄巡りをして山頂に辿りつくと極楽に行けるという立山信仰を描いている。富山出身だからすぐわかった。誰も賛同してくれなくて寂しいけど。

偶然、同時期に立山信仰の女性版(立山登山は、女人禁制だった)、布橋灌頂会(ぬのばしかんじょうえ)をテーマにした映画があることを知り、公開日のトークショー付き上映会に行ってきた。

布橋灌頂会は、江戸時代(1603-1867年)に女性の極楽往生を願った儀式であり、男性にのみに許された立山禅定登拝に代わるものとして誕生したそうだ。今も三年に一度、参加者を募って行われている。

布橋灌頂会は立山信仰を簡易にしたシステムで、地獄めぐりの代わりに、布橋という真っ赤な橋を、白衣の和装に目隠しをされて橋の向こう側にあるあの世に行く形をとる。

東京で博物館に勤務している一人暮らしの中年女性が、自分の勤める博物館の展示で布橋灌頂会のことを知り参加する。

なぜ、主人公女性はこの儀式に参加しようと思ったか、縁があって知り合うことになる、地元の女子高生との会話でポツポツと明かされていく。主人公女性の表情が東京にいた時に比べて柔和になっていき、立山にきたことが癒しになったことがわかる。女子高生が女性にたずねる。

「なぜ、布橋灌頂会に参加しようと思ったのですか?」
「会いたい人に会えるかな?と思って」

誰のことか徐々にわかってくる。もしかしたら、「会いたい人」は、目の前にいるその人なのかもしれないと思う。だから、別れのシーンの切なさに思わず涙が出た。

果たして、この女性は布橋を渡ることができたのか?
渡った先に何を見たのだろうか?

そんなことを考えるうちに、おそらく監督がトークショーで言ってた、自分の想像以上の映画が撮れたと話してた、この映画の山場が訪れる。目隠しで布橋を渡ることを観客に体験させる。これは、映画館じゃないとできない体験だった。

監督は自分に子どもができて、能登地震でお子さんが亡くなってるのを知り、親御さんはどんな気持ちか考えたことが、この映画を作るきっかけになったと話していた。布橋灌頂会は江戸時代には、吉原の芸者にも人気だったらしい。監督は、布橋灌頂会の歴史から学び、現代の参加者にも取材して、この映画を作った。その姿勢がしっかりシナリオにいきていた。

富山出身だから、東京のシーンで標準語で話す室井滋さんが登場すると、あれ?いま富山だっけ?とか混乱したけど、富山以外の方には気にならないだろう。

エンディングロールに、佐伯姓、志鷹姓が多い。実は我が家も江戸時代には佐伯姓で、あるきっかけで今の名前に変わったと聞いたことがある。実は立山の開山伝説に関わる話だ。

主人公が泊まるホテル、グリーンビュー立山は、実家の定宿だった。劇中ではタクシー移動していたが、実は立山駅すぐそばで、室堂に向かうケーブルカーにも近い好立地。立山に行きたくなったら宿泊先におすすめします。

minavo